コレクション 2

会期: 2008年7月1日~9月15日

近年に収蔵した2人の写真家、石内都と宮本隆司(共に1947年生まれ)の作品を紹介します。

宮本隆司
1947年、東京都に生まれた宮本隆司は、多摩美術大学で学び、在学中からカメラを手にするようになります。卒業後は建築雑誌の編集に携わる一歩、都市の中につかの間に出現した「廃墟」を撮影し、1986年には「建築の黙示録」展を開催しました。香港のスラム街を撮った作品集『九龍城砦』も注目を集め、1989年に木村伊兵衛賞を受賞しました。
「消えてしまう前に撮影しておこうほどの気持ち」で1983年に撮り始めたのが、中野刑務所です。これは後藤慶二の設計による近代建築のひとつで、戦前の思想犯たちを収容した施設として知られています。時代はバブル景気を前に、都市開発の波が東京に押し寄せつつある頃でした。中野刑務所を皮切りに、宮本はかつて娯楽場としてにぎわった映画館や根岸競馬場など、新しい経済論理のなかで消えてゆく都市建築の姿を捉えるようになりました。
宮本のレンズは、現代史の痕跡を色濃く残すベルリンの建築にも向けられています。《ベルリン大劇場》は、ベルリンの壁崩壊以前の東ベルリンにおいて撮影されました。この劇場は、ドイツ表現主義の建築家ハンス・ペルツィッヒによって設計され、鍾乳洞を思わせる壮麗な内部空間で有名でしたが、宮本の作品では、鉄骨も露わに痛々しい姿をみせています。
《日本大使館防空壕》は、壁崩壊後に撮影された写真です。1930年代にナチス様式で建てられた旧日本大使館は、爆撃を受け廃墟となっていました。戦後、そこに住みついたホームレスによって地下は水浸しになったといいます。張り詰めた水面が印象的な本作品からは、この建物の担う記憶が喚起されます。開発著しいベルリンに、いまだ残る生々しい過去の傷跡といえるでしょう。
《ノイエス・ムゼウム》と《ボーデ・ムゼウム》は、博物館島の整備プロジェクトに合わせて、宮本が撮影依頼を受けたものです。宮本は特にノイエス・ムゼウムが今なお戦時の爆撃を受けたままの姿で存在していたことに驚愕したといいます。
宮本の近作である《パラスト》は、解体途中にある旧東ドイツの共和国宮殿をテーマとしています。議場のほか娯楽施設も兼ね備えたこの建物は、かつて東ベルリンの人気スポットでした。このシリーズでは、建物の内から外へ、急速に開発の進むベルリンの街を捉えた写真が印象に残ります。パラストの汚れたガラス越しに淡く浮かび上がる新生ベルリンは、消えゆく運命にある、社会主義の「宮殿」と対照をなしているのです。

石内都
1947年、群馬県に生まれた石内都は、少女期を過ごした街・横須賀を撮影したシリーズ《絶唱・横須賀ストーリー》(1977年)で写真家として出発しました。1979年に木村伊兵衛賞を受賞、2005年にはヴェネチア・ビエンナーレ日本館に出品するなど、国内外で高い評価を得ています。今回は《屋内シリーズ》《1906-to the skin》《傷跡》の3つのシリーズよりご紹介します。
《屋内シリーズ》に登場する「互楽荘」は、横浜にあった戦前の高級アパートです。打ち捨てられた室内の床には瓦礫が散乱し、かつての様子を偲ぶかげもなく、過ぎ去った時間が澱んでいるようです。ドアの表面は塗装が剥がれ落ち、シミや亀裂はまるで年齢を重ねた人間の肌を思わせます。
風景写真を中心としていた石内が、人の身体を撮影の対象とし始めたのは1980年代後半のことです。自分と同年生まれの女性の手や足を接写したシリーズ《1・9・4・7》を発表後、舞踏家、大野一雄の身体を写したシリーズ《1906-to the skin》などに取り組みます。石内がカメラでとらえたのは大野が踊っている様子ではなく、皮膚に刻まれた染みや皺でした。身体のいわばプロフェッショナルとして90歳近い年齢を重ねた大野。その身体に迫り捉えられた皮膚は、長い間風に晒された岩壁か樹皮のようにも見えます。
その後、1990年代半ばを中心に取り組んだシリーズ《傷跡》では、病気・怪我・事故・手術などで皮膚に刻まれた様々な傷跡に向かいました。生々しい皮膚のひきつれは、傷にまつわる思い出を記憶するものであり、同時に傷が癒された証でもあります。匿名のものとして呈示された傷跡は、他者の生きた時間のみならず、いつか負う(負った)かもしれない私たちの生きる時間もそこに封印しているのです。
風化して剥がれ落ちた壁や瓦礫で荒れた床、そして皺や染みや傷跡が刻まれた皮膚。ここには、過去の堆積、記憶の痕跡という緩やかなつながりを見出すことができるでしょう。普段目にすることのあまりない廃墟の中や、衣服の下にひっそりと存在している「皺」「染み」「傷跡」は、石内のまなざしをもってカメラに収められ、印画紙に引き伸ばされることによって、新たな物語を静かに語り始めます。

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