12月4日にみる+(プラス)「さわったり、きいたり、はなしたり」を開催しました。
「みる+(プラス)」は、視覚(みる)だけに頼ることなく、ほかの感覚器官もプラスして働かせることにより、だれでもが鑑賞をはじめとする美術館のアクティヴィティを楽しめることを目指すプログラムです。
今回は、「すべて未知の世界へ ― GUTAI 分化と統合」展(以降、具体展)関連として、連続開催してきた「みる+(プラス)」の最終回です(※1)。レプリカや触れるツールを触ったり、他の人のお話を聞いたり、感じたことをお話ししたりして、作品へのいくつかのアプローチを体験してみるなかで、それぞれの参加者にとっての、作品を見ること、作品を楽しむこととは何かを考えていきました。みえない、みえにくい方3名、みえる方7名の方にご参加いただきました。
受付の後、講堂で、座って触って楽しむコミュニケーション敷物の中から、好きな敷物を2つ選んでいただきました。それぞれ全く異なる素材でできていて、触り心地、座り心地、重さ、厚みなども違います。プログラム冒頭の自己紹介を兼ねたアイスブレイクでは、選んだ敷物の触り心地、座り心地、なぜその敷物にしたのかなどをお話しする時間を取りました。見るだけではなく、触って座って感じたことをお話ししていくことで、徐々に色々な感覚を使い、口を動かし話したり、耳を澄まして聞いたりする準備体操になりました。
まず、当館所蔵作品のアルベルト・ジャコメッティ《ヤナイハラ Ⅰ》(1960-61年)のレプリカを触ってみることからスタートしました。2グループに分かれて、交替で触りながら、時には、複数の人が手をレプリカにそわせながら、触ってわかることや感じることなどをお話ししました。このレプリカは、2019年11月2日、12月7日に開催された、視覚を超えた鑑賞探求ワークショップ「見れば見るほど見えなくなる ジャコメッティ《ヤナイハラⅠ》を徹底的に鑑賞しよう」のために、3Dスキャンをもとに製作されたものです。実物大のレプリカを触ると、「細い人なのかな」、「鼻が高いな」、「髪の毛がだいぶ盛り上がっている」という、細部に関して思うことが漏れてきました。次に手のひらに収まる小さなレプリカ(3Dプリンターで出力されたもの)を触ると、手のひらで包み込めるサイズなので、みえない、みえにくい方は全体像をつかむ手がかりとすることができるといった意見が飛び交っていました。
次に、エントランスホールから見える壁に恒久設置されているジョアン・ミロ《無垢の笑い》(1969年)を見ました。640枚の陶板からなる巨大な陶板画は当館の顔とも言えますが、展覧会場にアクセスするエスカレーターからいつでもじっくり見られる割には、壁になじみすぎているのか、実は注目されることが少ない作品です。今回は、2種類の触れるツールを使って、じっくり鑑賞することにチャレンジしました。最初に、実物の作品が見えるところまで行き、作品を見ながら、触れるツールに触れていきました。そのツールは、2020年度に、みえない方、みえにくい方を中心に、特別支援学校教諭、視覚支援学校教諭、学芸員などが協力して考案しました。通常の触察ツールのように、(今回の場合は)触ったときに線が盛り上がって表現され、作品全体に線がどのように走っているのかが触るとわかるようになっています。今回の触れるツールの特徴的な点は、ツール検討時にグループに分かれて作品鑑賞し、最終的にそれぞれのグループが持った赤、黄、青、緑に対する印象が、布、皮、ベロアなどの素材で表現されているところです。理想的には、今回の参加者が作品を見ながら感じることと、検討チームの面々が抱いた印象を、触れるツールに触りながら比較できると、作品の線や色の確認にとどまらず、話しがさらに広がったかもしれませんが、今回はツールの確認止まりになってしまった点は否めません。ツールはあくまでも、ひとつのきっかけですので、ツールから対話が起こり、いかにみなさんのイメージをより深めていけるかが今後の課題です。
鑑賞後は、もう1種の触れるツールを体験しました。作品の一部を実物大で確認でき、触って感じられるものです。作品の線をメッシュ素材で、色の部分をモップの毛や布で色別に表していて、先ほど見たり触ったりした作品のどの部分かを思い出しながら、お話ししていきました。
最後は、具体展の会場に向かい、数点を全員で対話により鑑賞しました。作品を見て、それぞれが感じたこと、考えたことを話し合いながら、お互いの話に耳をかたむけあって、また話していました。当館に何度もご来館くださっている参加者も、「お子さんや他の方のお話しを聞いて、いろんな見方を楽しむことができた」とおっしゃっていたのが印象的でした。
その後、講堂で、プログラム内容を振り返り、解散しました。みなさん、いろいろな見方、感じ方、考え方があることを確認、再確認できたことがとてもよかったといった好意的なご感想をくださる方が多かったです。それぞれの方が、「作品を楽しむこととは?」を考える機会になっていれば嬉しいですが、みえない方、みえにくい方、みえる方が、それぞれの立場で「参加できた!」と思えるプログラム作りにはまだまだ検討していく必要があることを強く感じました。
ご参加いただいたみなさん、ありがとうございました!今回のご参加を機に、気軽に美術館に遊びに来てくれたら嬉しいです。ご来館お待ちしています。[S.S]
※1
「オンラインではなしてみる」(9月4日開催)の様子についてはこちらから
「美術館ではなしてみる」(10月30日開催)の様子についてはこちらから
自由に参加!「50個の『・』から絵をかこう」ワークショップ(11月20日開催)の様子についてはこちらから
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2022年12月4日(日) 13:00〜16:00
対象:どなたでも
定員:10名
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