国立国際美術館

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学校団体鑑賞

静岡県立浜松北高等学校

2023年8月24日(木)

8月24日に静岡県立浜松北高等学校美術部1・2年生21名が来館されました。

遠方のため、先生と電話で事前打ち合わせを行いました。美術部の合宿として大阪と京都の美術館をまわる計画を立てていらっしゃるということで、当館では建物と現代美術、海外の最先端の表現にも触れてほしいという先生の希望をお聞きし、活動内容を組み立てました。

まずは講堂でオリエンテーションを行いました。建物について詳しく知りたいとの希望を受けて美術館の紹介では、当館の建物を設計した建築家、シーザー・ペリが手掛けた国内外の建物についてもお話ししました。ニューヨーク近代美術館(MoMA)の増築をはじめ、「建築はまさに公共の芸術である」という言葉を残したペリは、当館の設計においても作品鑑賞だけでなく、人が出会う拠点としての美術館を思い描いていたと伝えました。今回の合宿期間中に、多様な建物に触れる生徒さんだからこそ、用いられている建材に目を向けたり、建てられた時代やコンセプト等にも興味をもってほしいこと、そして作品も同様に、様々な素材や技法にも着目して、今後の制作に活かしてほしいことをお伝えしました。

地下3階で開催されている「ホーム・スイート・ホーム」展では、最初こそ全員で鎌田友介《Japanese Houses》(2022年)をじっくりと見ていましたが、そのうち各々のペースで見て回るようになりました。鎌田友介《Japanese Houses (Taiwan 1930s /Brazil 1930s /South Korea 1930s)》(2022年)には、台湾やブラジル、韓国における日本家屋の写真が用いられていますが、それらを見比べて「これは日本?日本っぽいけど、日本じゃない?」と友達とお話ししながら進む生徒もいました。別の生徒が作品の建物の柱や梁を見ながら日本家屋の構造について思いを巡らしている場面もありました。また、竹村京《E.K.のために》(2015年)を一緒に見ていた2人は、「なんだろう?わからないけど気になる」と何度も眺めていました。顔の部分を指差し、「人の顔が刺繍で隠れていて、ベールに包まれたような感じ」と1人が言うと、もう1人は「左半分が能面で、右半分がデッサンする時の彫刻みたいだから、東洋と西洋ってことじゃない?」と各々気になる部分から感じたこと、考えたことを伝え合っていました。他にもアンドロ・ウェクアの大きな彫刻《無題》(2017年)を一周した生徒は、狼と人の部分がどうやってつながっているのか、何でできているのか気になる様子で、キャプションを見て素材を確かめていました。

展示室では鑑賞サポートツール『アクティヴィティ・ブック』(※)の中から、作品の特徴や感じたことを言葉で表現するアクティビティ「02 そっくりさん」、「08 ひとりごと」、「22 レポーター」を自由に選択して取り組みました。潘逸舟《ほうれん草たちが日本語で夢を見た日》(2020年)を鑑賞した後、作品解説を読んでからもう一度作品へ戻った生徒は、会場に流れる鳥の鳴き声も含めて、段ボールのインスタレーションを「段ボールに穴がいっぱいあって鳥かごのよう。ほうれん草は段ボールに詰められるけど、土に戻りたがっているんじゃないか。その声が鳥の声となって聞こえている」と空を自由に飛ぶ鳥と収穫され段ボールに入れられて出荷されるほうれん草を結び付けて、自分なりの解釈を導き出していました。彼女は、作品を見たことがない人に向けて作品についてレポートするアクティヴィティ「22 レポーター」に取り組み、自分が見たことをどのように言葉で伝えようか考えながら書いていました。

地下2階で開催されている「コレクション1 80/90/00/10」展では、中原浩大《レゴ》(1990-91年)を何度も見て回る生徒がいました。彼女は選んだ作品になりきって自己紹介するアクティヴィティ「08 ひとりごと」に取り組み、時折、近くの生徒と作品を見て気づいた部分について話しながら、作品の特徴を考えて書き込んでいました。村上隆《727 FATMAN LITTLE BOY》(2017年)の前では、複数の生徒が長い時間を過ごしていました。「近くで見るといろいろな絵の具が使われていて、垂れていたり、飛び散っていたり、気になるところが一杯あるけど、遠くから全体を見るとまとまりがある」と驚く生徒もいました。細部にわたって描かれているだけではなく、全体の構成も考えられた作品に関心を持ったようです。この村上作品が今日見た中で一番インパクトがあると教えてくれた生徒は、「明るい色を使っているのに絵の具が垂れさがっていて怖いイメージ。中央に黒い円もあってすごく心に残った」と、アクティヴィティ「22 レポーター」に作品から受けた印象も含めて書き込もうとしていました。森村泰昌《Blinded by the Light》(1991年)を鑑賞していた2人の生徒は、作家自身が画面中の複数の人物に扮装しているとスタッフから聞き、「どうして自分を描いているんだろう?自己顕示欲のある人なのかな?」と作品だけでなく作家にも興味を抱いていました。画面に描かれた散らばるお札の人物の箇所にも同じ人物を見つけ、「お札の人になって、偉くなりたいのかな?」と話したり、それぞれの人物の服装や持ち物に注目して「なんだろう?」と次々と疑問が湧き出ているようでした。

『アクティヴィティ・ブック』に取り組んだり、友達と話しながら、作品を前にして気づいたことや思ったこと、感じたことを言葉にする鑑賞を重ねていたこともあってか、「ホーム・スイート・ホーム」展だけで1時間半鑑賞していた生徒もいる等、各々時間をかけてじっくりと作品を楽しんでくれていたようでした。その日の夜には、取り組んだアクティヴィティについて全員で発表したそうです。鑑賞時だけではなく、アクティヴィティの共有を通して、同じ作品を見ていても様々な見方、感じ方があると気づいていただけたのではないでしょうか。

静岡県立浜松北高等学校美術部のみなさん、ご来館ありがとうございました。関西へ来られることがあれば、またぜひお立ち寄りください。お待ちしています。 [S.S]

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