8月9日に特定非営利活動法人IKUNO・多文化ふらっと(※1)から、小学生3名、中学生4名、高校生3名が来館されました。当法人は、多国籍・多文化のまち大阪市生野区で、外国にルーツを持つ子どもの学習支援や多文化共生の拠点づくりに取り組んでいます。今回は大阪大学社会ソリューションイニシアティブ(SSI)(※2)ご協力のもと、当館との共催事業として「国立国際美術館に行こう!美術館ってなに!アートってなに!」を開催しました。今回鑑賞する「ホーム・スイート・ホーム」展では、歴史、記憶、アイデンティティ等をキーワードに表現された作品が展示されています。本展の鑑賞を通して、外国にルーツを持つ子どもたちが「広い世界」、「異なる他者」、「未知なる自分」を体感、発見する機会になればという思いで企画しました。7月29日に開催したワークショップ「ことばを縫う / Sewing the words」(※3)と共に、外国にルーツを持つ子どもたちを対象とした取り組みの第一歩です。
まず初めに、講堂でスタッフを含めた全員で自己紹介をし、呼んでもらいたい名前と美術館に行ったことがあるかについてお話ししました。美術館は初めてという子どもも多く、IKUNO・多文化ふらっとのスタッフから「鑑賞中、しんどくなったり、休憩したくなったら言ってね」とお話しがあり、リラックスした雰囲気でスタートしました。続いて美術館スタッフから、当館やこれから見る展覧会について紹介しました。当館の外観写真をスクリーンに映すと、「翼みたい」「手前のにゅるんとした感じがタラコみたい」といった声が上がりました。発言がなかった子も、他の人の発言に耳を傾けながら、スクリーンをじっと見ていました。展示室で気になる作品があったら立ち止まって見て、何が気になるのか考えてみてほしいこと、美術館は様々な人の見方や考え方に出会える場所だと伝えて、いよいよ出発です。
展示室に向かう途中、地下1階のエントランスホールで建物の特徴についても触れました。床に敷き詰められている小さな大理石のタイルに、ガラス張りの天井から差し込んできた光が反射して、地下でも明るく感じられる工夫がされていると知ると、年齢にかかわらず、みんなで床の素材を興味深そうに眺めていました。
展示室では、気になった作品をメモしながら、個々人のペースで進んでいきました。地下3階で開催されている「ホーム・スイート・ホーム」展では、中学生が鎌田友介のインスタレーション作品《Japanese Houses》(2023年)に使用されている、煌々と光を放つ何本もの蛍光灯を見て、「白い魂が上に飛んでいく感じ。光が天に召されるのを感じた」と話していました。また、マリア・ファーラの作品が展示されている部屋では、2人の中学生が話しながら作品をじっと見ていました。作品から時々距離をとってみたり、近寄ったりしながら、盛り上がった絵の具で表現された波の荒々しさに興味を惹かれているようでした。潘逸舟《ほうれん草たちが日本語で夢を見た日》(2020年)を見て、「だんぼーるなのにさくひんみたいになっている」とメモしている子もいました。その子には、どこにでもあるものと思えた段ボールが展示室一面に並んでいる光景が気になったようで、他の作品を見た後も何度もこの部屋に戻って観察していました。
地下2階で開催されている「コレクション1 80/90/00/10」展でも、みなさんとても集中して、メモをとりながら鑑賞していました。中原浩大《レゴ》(1990-91年)の裏側を見て「うわっ!」と驚いた小学生は、作品の表と裏を何度も行き来しながら、「どっちが本当なんだろう?(この作品の本来の姿なんだろう?)」とつぶやいていました。写真を撮るのが好きだという高校生は記録係を任命され、カメラを片手に展示室をめぐり、マーク・マンダース《乾いた土の頭部》(2015-16年)を見て、気になった顔の影がはっきりわかるようなアングルで撮影をしていました。他にも、気になる作品をたくさん見つけた子は、シートの枠内には書きたいことが収まりきらず、自分で枠を書き足して、地下1階に展示されているヘンリー・ムア《ナイフ・エッジ》(1961/76年)を下から見上げたり、別の角度から眺めたりしながら記入していました。
講堂に戻ったら、体をほぐすためにストレッチをして少し休憩。自分の見たことや感じたことを共有したい人を募ると、中原浩大《Pine Tree Installation; アトム》(1983年)が気に入った高校生は、その理由を「SFが好きだから」と言ってくれました。前述した段ボールが気になっていた子は、「身の回りのものを利用したものがあって、日常にあるものにどれぐらい視野を持てるのかが美術なのかな」と、今日の活動で多くのものに注意深く目を向けてくれたことが伺える発言をしてくれました。また、IKUNO・多文化ふらっとのスタッフから「ここに展示されている写真は美術作品だけど、自分で撮った写真と何が違うのだろう」と美術作品と言われるものとそうではないものとの違いについてみんなに投げかける場面もありました。
活動の終わりに、美術館スタッフから渡された「ホーム・スイート・ホーム」展のチラシを見て、隣の子と話す子もいました。友達やスタッフと話しながら、作品を見て気になったこと、疑問に思ったことが沢山生まれた1日だったと思います。今日の体験がみなさんの心に少しでも残ればとても嬉しいです。
特定非営利活動法人IKUNO・多文化ふらっとのみなさん、ご来館ありがとうございました。
また美術館に遊びに来てくださいね。ご来館お待ちしています。[S.S]
※1 特定非営利活動法人IKUNO・多文化ふらっとについてはこちらから
※2 大阪大学社会ソリューションイニシアティブ(SSI)についてはこちらから
※3 ワークショップ「ことばを縫う / Sewing the words」の様子はこちらから





