7月25日に大阪府公立小・中学校美術教育研究会研修会のため、大阪府下(大阪市・堺市を除く)の公立小中学校の教員13名が来館しました。
当館では、学校や研究団体からのご依頼により、教員研修を随時実施しています。(※1)今回の研修は、教員が児童生徒に近い姿で鑑賞活動を行うことを通して、鑑賞活動のよさを味わうとともに、今後の授業づくりや指導に生かすことを目的に開催しました。
最初は、『国立美術館アートカード・セット』(以下、アートカード ※2)演習です。美術館スタッフがこれまでのアートカード使用歴について尋ねると、4名の先生がゲーム参加者として経験したことがあり、中には学校で購入して教員同士でゲームをしたことがあると答える先生もいらっしゃいました。数回使用するだけでなく、継続的に使用することによって、鑑賞に必要な基礎力が身についていくと伝え、発達段階、学習目標に応じたゲームを取り入れるポイントなどを紹介しました。今回、先生方が体験されたゲームは、研修担当の先生から、研修後半のグループワークでの活発な意見交流につながるように「人となりがわかるものにしてほしい」というリクエストを受けて、「私のむりやり紹介!」「ペアをみつけろ!」「4コマ物語をつくろう!」の3種類でした。「私のむりやり紹介!」は、先生からのリクエストに応じて美術館スタッフが考案したゲームです。カードを全て裏返してバラバラにした状態で無作為に1枚選び、そのカード(作品)を使って自己紹介するというものです。どんな作品が出るか分からない状況に先生方はドキドキしている様子で、引いた作品を見て、悩む姿もありましたが、それぞれ自分に関連させたお話を展開させていました。「ペアをみつけろ!」は、同じく裏面にした状態で並べられているカードの中から2枚のカードを選び、その2点の共通点を見つけて説明するゲームです。美術館スタッフからは対象者によって少しずつゲームのルールを調整すること、言い回し等を変えることを、実際にゲームをしながら考えてもらえるよう先生方にお伝えしました。例えば、「共通点を探す」と言うと対象者によっては、全く同じモチーフが描かれていなければ「共通している」とは言えない!などと難しく考えるかもしれないので、「似ているもの」という表現に変えて伝えるなどお話ししました。「4コマ物語をつくろう!」では全てのカードの表面を上に並べた状態から4枚のカードを選び、物語をつくるゲームです。1枚のカードを起点に考える先生もいれば、物語をつくってからカードを選ぶ先生もいらっしゃいました。児童生徒と同じ目線でアートカードゲームを実践していく中で、アートカードゲームを通して子どもたちにどのような学びが起こるのかを体験するとともに、先生自身が作品を見て、発見したことや考えたことを共有していきながら、作品鑑賞を楽しんでいるようでした。さらに、この3種類のゲームは目的通りの役割を果たし、その後のグループワークでは、会話が和やかに進んでいるように見受けられました。
地下2階の展示室(※3)に移動する際、ヘンリー・ムア《ナイフ・エッジ》(1961/1976年)の前で立ち止まる先生が数名いらっしゃいました。アートカードでも取り上げられている本作品を見て、「(実物は)こんなに大きいんですね」といった声が聞かれたり、カードでは見ることのできない裏側に回って作品を眺める姿も見られました。
地下2階では、ミケル・バルセロ《下は熱い》(2018年)では、研修担当の先生が参加者と一緒に作品についておしゃべりしました。教えるだけのおしゃべりにならないようにすること、先に情報を探さないということを前もってお伝えされていました。何が見えるかを尋ねられると、すぐに「遠くから見ると波打つ感じだけだったが、近づくと目がある。魚だ」という発言がありました。ある先生が「横から見ると出っ張っている」と言うと、全員がそれぞれ立っていた位置から移動し、さまざまな角度から作品を見ていました。作品の正面に戻ってきた先生は、「出ていると分かっていても、正面から見ると平面に見える」と話していました。研修担当の先生から作品のタイトルが告げられると、「水(の温度)が熱いのかな」「崖の上から下に広がる海を見ている人が(魚が大量なことに興奮した意味で)熱いと思っているのかも」など、それぞれがタイトルから想像を膨らませていました。
その後、個人鑑賞時間とグループ鑑賞時間を設けました。個人鑑賞では、それぞれのペースで作品を鑑賞し、気になる作品の前では時間をかけて鑑賞している様子が見られました。3~4名のグループ鑑賞では、個人鑑賞の時間に自分が感じたことや考えたことなどの意見を交換することで、グループメンバーの自分とは違う視点や解釈に感心している姿もありました。
研修の最後にジャデ・ファドジュティミ《疑惑の領域を見渡す》(2021年)を全員で鑑賞しました。「先に背景の蛍光色で描いてから、暗い色で描いたのではないか」という作品がどのように描かれたかという話題から作品に対する印象まで、さまざまな話が出ました。この作品を好きだと思う先生からは「色がにぎやかでいい」「いろいろなモチーフが見える」という意見が、あまり好きではないという先生からは「自分にはこうした絵が描けない」という声が聞かれました。美術館スタッフから作者に関する情報を簡単に伝えると、研修担当の先生は作者がどんな経験をしてきたのかを考えるのも作品鑑賞の楽しさの一つなのではないかと話されました。
今回の研修会では、鑑賞する作品を絞って、全員で鑑賞したり、個人で鑑賞する時間を大切にしたり、グループでの対話を楽しんだりと、鑑賞する人数を変えて、鑑賞をしてみました。自由におしゃべりをして、自分の考えを話したり、他の参加者の意見を聞いたりすることで、同じ作品に向き合っていても捉え方が自分の中で変化していくことをもしかしたら感じていただけたかもしれません。
ご参加の先生方、お忙しい中ご来館ありがとうございました。今回の経験を今後の学校での鑑賞授業や、美術館での作品鑑賞に展開していただけると嬉しいです。 [F.A]
※1 教員研修についての詳細はこちらから
※2 鑑賞教材『国立美術館アートカード・セット』についてはこちらから
※3 地下2階コレクション展は、展示室内整備・修繕のため、開催していませんが、地下2階展示室の一部では、近年の収蔵作品と恒久設置作品を6月4日から10月6日まで展示しています。




