今日のイギリス美術

会期:1982年6月12日~7月25日

既に国際的に活躍している作家たちから、今回初めて日本に紹介される新進の作家たちまで、33名の作家による絵画、素描、彫刻、写真など200点近い作品からなる本展は、イギリスの現代美術をまとめて紹介した展覧会としては、1970年に東京国立近代美術館で開催された「現代イギリス美術展」以来の大規模なものである。
本展のこのような意義をより一層充実したものとするため、国際的な文化交流機関のひとつであるイギリスのブリティッシュ・カウンシルの全面的な協力のもとに、日本の国公立の美術館5館が共同して企画にあたり、調査や準備に3年近くかけて開催されることになった。当初、北九州市立美術館が企画に参画していたが、最終的には、当館と北海道立近代美術館、栃木県立美術館、東京都美術館、福岡市美術館の共同企画ということになった。
「今日のイギリス美術にみられる種々な様相」と題された英国側のタイトルが示しているように、本展の趣意は、イギリスの現代美術の全体像を代表的作家の代表的な作品によって総合的に紹介しようというのではなく、むしろ、今日国際的にも注目を集め、活況を呈しているイギリスの現代美術の多彩な展開を、生き生きと伝えることにあった。従って、作家選定にあたっては、1930年代、40年代生まれの作家に重点を置き、出品作品は1970年代後半から80年代にかけての最近作を中心とすることになった。また、展覧会の構成にあたっては、二部形式をとることとし、第一部は、比較的日本でも名前の知られている作家を集めて現代イギリス美術への導入部とすること、第二部では、イギリスにおける現代美術の多様さを効果的に印象づけるためもあって、出品点数は各作家数点づつとし、各作家ごとに個室を与える個展形式をとること、従って第二部は個展の連続という形になることなどが基本的な構想となった。またカタログについては、単なる展覧会の記録としてではなく、今後もイギリスの現代美術の資料集として活用できるよう、資料中心の編集とすることが試みられた。
第一部の導入部には、アンソニー・カロ、ブリジット・ライリー、ルシアン・フロイトなど、日本でも個展などを通じて馴染みのある作家たちの他、フランク・アウアーバッハ、ケネス・マーチン、ジョン・ウォーカー、フィリップ・キングなど既に評価の確立している作家たち8名の作品によって構成された。また第二部は、ディヴィッド・ホックニー、バリー・フラナガン、ギルバート・アンド・ジョージ、ナイジェル・ホール、ブルース・マックレーンなど、現在旺盛に仕事をしている中堅、若手の作家たち25名の個展で構成された。
とりわけこの第二部には、多彩な顔ぶれがそろっており、イギリスの現代美術の層の厚さと若々しく新鮮な感覚が強く印象づけられることになった。なかでも、日本での現地制作によるデイヴィッド・ナッシュの自然木を使った立体作品や、太陽光線を利用して木片に模様を刻むロジャー・アックリングの作品のように、自然との深いかかわりをもった作品が日本人の感性に親しみやすかったのか、大いに話題となった。また、トニー・クラッグの捨てられたプラスチック製品の破片やゴミを壁に貼りつける"絵画"や、展示壁面そのものに紙テープを使って日常の品物の形を描くマイケル・クレッグ=マーチンの"素描"などが、発想のユニークさやユーモア感覚で注目を集めた。
本展会場には、4、3、2階の展示場をあてたが、展示には、白い壁面、白い照明を基本とし、大いに効果をあげた。

なお本展は、当館展以外では以下のように開催された。
東京都美術館/昭和57年2月27日−4月11日
栃木県立美術館/4月24日−5月30日
福岡市立美術館/8月7日−8月29日
北海道立近代美術館/9月9日−10月9日

従来、大規模な外国展を開催する場合、経費上の問題から新聞社等との共催という形をとることが多く、従ってどうしても採算との関係で動員力の少ない現代美術展のような企画は美術館側の希望通りに取り上げられることが少なかった。本展の、国公立美術館による共同企画・共同出資、各館担当学芸員による共同研究という今までにない初めての試みは、実際の管理、運営面での諸問題を克服して実現され、今後の展覧会企画にひとつの新しい在り方を提示する機会となった。

  • 入場者総数12,018人(1日平均316人)
  • 主催国立国際美術館
  • カタログ「今日のイギリス美術展」
    24×22cm/208ページ/カラー37ページ/白黒90ページ
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