7月12日に大阪府立大阪北視覚支援学校中学部8名が来館しました。
今回のご来館を検討くださった先生は、2023年度に完成した「たてもの鑑賞サポートツール」(※1)制作検討のための一連のプログラムに参加された方でした。以前より、生徒たちを美術館に連れて来たいと強く希望くださっていました。
当館からは事前授業のために、上記のツールの一種である、木製パネルでできた当館の地上1階から地下3階までの触地図(※2)「さわれるマップ」を貸し出しました。生徒たちは、引率担当の先生から説明を聞きながらマップにさわり、美術館の建物について予習しました。
当日、生徒たちは活動場所となる会議室に到着すると、入館してから会議室に至るまでの道と今いる場所を、「さわれるマップ」をさわって確認しました。引率担当の先生が「さわれるマップ」以外の「たてもの鑑賞サポートツール」の種類やツールの制作目的を説明した後、生徒たちは「全体模型」(美術館の建物全体の空間を再現したもの)、「地下1階組み立て式模型」(着脱可能なパーツによって地下1階の空間を再現したもの)、「断面模型」(当館の建物の大きな特徴の一つである地下1階から地下3階の吹き抜け構造をさわって確認できるもの)、「外観模型」(当館の外観の特徴である銀色のステンレスパイプで形づくられたオブジェの部分がコンパクトに表現されているもの)の4種のツールにさわりました。ある生徒は、エントランスのある1階から地下1階に移動する際に乗った、円柱状のエレベーターを気に入っていました。その生徒は各ツールをさわるたびに、そのエレベーターがどこにあるかを探そうとし、探し当てると、嬉しそうに付き添いの先生に伝えていました。全員がすべてのツールをさわり終えた後、引率担当の先生が「(全てのツールをさわって)どうだった?」と聞くと、「いろいろ(他の種類が)あることがわかった」「(地下1階組み立て模型の)いろいろ(なパーツが)はずせるのが一番わかりやすかった」などの感想を語ってくれました。事前学習で使用した「さわれるマップ」を気に入った生徒が美術館散策に持って行きたいと希望したので、そのような希望を受けた際に活用できるように開けられた穴にリボンを通してツールを渡すと、とても喜んで首からかけていました。
美術館散策の始まりは、地下1階のエントランスロビーです。細かく切られた大理石が敷き詰められた床や、コンクリートの太い柱、布張りの壁など、建物のいろいろな場所にさわりながら、一つの建物の中でも場所によって使われている資材が違うことを確認し、材質の違いを感じていました。レストラン前のデッキからは、ジョアン・ミロ《無垢の笑い》(1969年)を鑑賞しました。引率担当の先生が横の長さが12mと伝え、何枚の陶板でできていると思うかと尋ねると、ほぼ見えている生徒からは「500枚くらい?」と返ってきました。640枚の陶板でできていること、会議室に戻ってから陶板のレプリカにさわれることを伝えると、生徒たちからは「え〜!」と驚きと期待の声が上がりました。
地下2階の展示室への移動時は、エスカレーター、エレベーター、階段と、それぞれが自分の体調や気分、動きやすさにあわせて、移動手段を選びました。展示室では、作品がどれくらいの大きさなのか、どんな形をしているかなど、引率担当の先生が一点ずつ丁寧に紹介しました。ミケル・バルセロ《下は熱い》(2018年)の前で先生が「刷毛で絵の具を全体にのばしている」「凹凸、陰影がある」と言うと、興味を持った生徒が「油絵なの?」と質問する場面もありました。
全員で少し休憩した後、地下3階の「梅津庸一 クリスタルパレス」展(6月4日~10月6日開催、以下、梅津展)に向かうグループと、もう少し休憩してから早めに会議室に戻るグループに分かれました。5名の生徒が梅津展を鑑賞しました。地下2階では引率担当の先生によるお話を聞きながら作品を鑑賞していましたが、同展では限られた視野だが見える生徒たちは作品に可能な限り近づき、自ら積極的に見ようとする姿が印象的でした。時に質問、時に先生の話を聞いて歓声を上げながら熱心に展示室を回りました。何人かの生徒は、今度は家族と来たいと何度も話していました。
会議室に戻り、《無垢の笑い》の陶板1枚のレプリカと展覧会担当者が所蔵している梅津庸一氏作の陶の作品をさわって鑑賞しました。陶板のレプリカをゆっくりと持ち上げて重さを体感することに加えて、表も裏も陶板全体をさわって、表面の釉薬がかかっている箇所とかかっていない箇所、裏面の素焼きの部分のさわり心地の違いなども感じていました。梅津氏の陶の作品にさわれることをとても楽しみにしていた生徒たちは、丁寧に指を滑らせながら「不思議な形」「ツルツルしてたり、ザラザラしているところがある」と、形やさわり心地を味わっていました。少し見えている生徒からは、色がはっきりしているから見やすいという発言もありました。時間をかけて作品にさわる生徒たちの様子を見て、付き添いの先生方からは、「普段はあまりさわらない。こんなにさわっているのはめずらしい」という驚きと喜びの声が聞かれました。
最後に引率担当の先生から印象に残ったものや感想を聞かれると、多数のツールや建物のさまざまな素材にさわったこと、梅津氏の作品にさわれたことを挙げていました。今回の来館では、どちらかというと、建物の鑑賞をメインにしていましたが、生徒のみなさんは美術館の建物と作品のどちらも楽しんでいました。
大阪府立大阪北視覚支援学校中学部のみなさん、ご来館ありがとうございました。またのご来館お待ちしています。[F.A]
※1 「たてもの鑑賞サポートツール」は、見えない、見えにくい、見えるにかかわらず、だれもが建物を楽しむことができる触察ツールとして開発されました。詳細はこちらから
※2 「触察」とは、主に手でさわって、触覚を活用して感じ取り、事物の状態を明らかにすることです。詳細はこちらから





