4月26日に「ちっちゃなこどもびじゅつあー 〜絵本もいっしょに〜」を開催しました。あいにくの雨模様でしたが、午前に1回、午後に2回の計3回実施し、生後5ヶ月から5歳までの子どもとその保護者、計11組27名にご参加いただきました。 「ちっちゃなこどもびじゅつあー ~絵本もいっしょに~」は、2019年からはじまったプログラムで、展示に合わせてテーマや内容を変えています。この日は、「コレクション2 特集展示:メル・ボックナー」を鑑賞しました。本展は、アメリカのコンセプチュアル・アートを代表するアメリカ人作家メル・ボックナーの《セオリー・オブ・スカルプチャー(カウンティング)&プライマー》(1969-73年)を中心に、荒川修作、河原温、高松次郎などの同時代に活躍した日本人作家による作品を紹介し、コンセプチュアル・アートについて考える展覧会です。(※1) 今回は、赤ちゃんをはじめ、小さなお子さんを連れて美術館に行くことを躊躇されている方々に向けて、子どもたちの様子や保護者の感想を中心にレポートしていきます。 当館で定期開催している鑑賞プログラムには、ほかにも、小学1年生から4年生とその保護者を対象とした「こどもびじゅつあー」、小学5年生から中学3年生とその保護者を対象とした「びじゅつあー」、年齢問わず参加できる「だれでもびじゅつあー」があります。いずれも、展示室で作品を鑑賞する前のウォーミングアップとして、講堂のスクリーンに鑑賞する作品を映し出して参加者とお話しをするスライドトークを行います。加えて、「ちっちゃなこどもびじゅつあー」は、タイトルに「絵本もいっしょに」とあるように、スライドトークの前に絵本をよんで、まずは、子どもたちと保護者の緊張をほぐします。 この日は、「美術と絵本を考える会」のみなさんが、作品に合わせて数や数えることをテーマに選書したなかで、作品を鑑賞する前には『1はゴリラ かずのほん』(アンソニー・ブラウン/作、さくまゆみこ/訳、岩波書店、2013年)と『ハンダのびっくりプレゼント』(アイリーン・ブラウン/作、福本友美子/訳、光村教育図書、2006年)を絵本よみしました。『1はゴリラ かずのほん』には、さまざまなヒト科の動物が登場します。絵本に出てくる動物の名前をよみ手の後に続いて元気よく復唱する子もいました。『ハンダのびっくりプレゼント』では、色鮮やかに描かれているアフリカのくらしの様子の絵にくぎ付けになっている様子も見られました。なかには絵本よみの最中に歩いたり、ハイハイしたりして動き回っている子もいますが、怪我のないようにスタッフが見守りながら、和やかにプログラムは進んでいきます。 スライドトークでは、作品の写真を見て気が付いたことを自由にお話しします。すでにおしゃべりができる子は、石を見て「細長い石」、「ハートみたい」「おいもみたい」など、目についた石の形をお話しします。なかにはさっそく石の数を数える子もいます。まだおしゃべりし始めていない小さい子でも、写真をじっと見ていたり、「あー」と声を出したりして反応してくれることが多くあります。また保護者にも気づいたこと、気になったことをお話ししてもらい、美術館のスタッフから、これから見る作品はどんなものか、作品のどんなところに注目をしたらいいかをお伝えします。 展示室では、「美術と絵本を考える会」のメンバーと美術館スタッフが参加者をサポートしながら、作品を鑑賞します。 今回の参加者のなかに、絵本が大好きで、毎日たくさんの絵本をよんでいるという2歳の女の子がいました。今日は絵本を楽しみにしてきたようで、最初の方は展示している作品にあまり興味をもっていなさそうでしたが、保護者やスタッフと一緒に石の数を数えるうちに、自分から「いち、いち」と石を指差して話す様子もあり、徐々に作品を見ることを楽しむようになっていました。また、抱っこ紐で抱っこされている1歳の男の子は数を数えることができませんが、石の数を数えるのに合わせてお母さんが体を揺らすと、楽しそうに笑っている様子も見られました。別の1歳の男の子は同じく抱っこ紐で抱っこされていましたが、植松奎二《石、ロープ、人》(1974年)の前でのスタッフの「ビューン」という声に反応して手足をバタバタと揺らしている様子がありました。保護者の方いわく、その子は箱が好きということで、斎藤陽子《エッチング・ボックス》(1968年)と塩見允枝子(千枝子)《エンドレス・ボックス》(1963/90年)を見て、ニコニコとしていたとのこと。乳幼児は美術作品を楽しめないのではと思われがちですが、その子なりに作品を見て、感じて、楽しんでいるということを垣間見ることができました。 鑑賞した後のふりかえりの時間では、子どもたちからは感想を、保護者からは子どもたちの反応を聞きます。床に並べられている石を一生懸命数えていた5歳の男の子の保護者からは、「子どもがこんなに(50以上の)数を数えられるとは知らなかった」と、親が知らなかった子どものできることに驚いたようでした。また、子どもが3歳の時にもこのプログラムに参加したことのある保護者は、「前回参加した時、子どもはあまり話さなかったが、今回はたくさん発言していて成長を感じた。」とスタッフにお話ししてくれました。長く続けているプログラムだからこそ、こうした参加者の声を聞くことができたのだと思います。今後も継続的にこのプログラムにご参加いただき、子どもの成長を感じていただければ嬉しいです。 最後に、『いちじく にんじん』(大阪YWCA千里子ども図書館/案 ごんもりなつこ/絵、福音館書店、2012年)を絵本よみしました。この絵本は、同じ名前のわらべ唄(数え唄)がもとになっています。最初に、書かれている言葉の通りに絵本を最後まで通してよんだ後、手遊びをしながら繰り返しよんでいきます。歌のスピードは回を重ねるごとにどんどん早くなっていくのですが、よみ手の歌に合わせて子どもたちも一緒に手を動かして数を数えます。自分では歌に合わせて手を動かせない小さな子どもは、そばにいる保護者がサポートしながら手遊びをすることで、絵本と数を数えることの両方を楽しんでいる様子でした。 プログラム終了後には、今後のプログラム改善のために、アンケートの記入をお願いしています。保護者がアンケートを記入している間は、「美術と絵本を考える会」のメンバーがマンツーマンで絵本をよみながら、子どもたちと時間を過ごします。なかには絵本に夢中になって、帰る時間も忘れて、何冊もの絵本をよんでから帰る子どももたくさんいます。 アンケートでは「子どもと一緒だと、泣いちゃったりしてご迷惑かと思い、なかなか美術館に来にくいですが、未就学児対象(のプログラム)だと一緒に鑑賞することができて嬉しかったです。」といった感想をいただくことが多々あります。やはり、たとえご出産前は美術館によく行かれていた保護者でさえも、小さな子どもと一緒に美術館に来ることがたいへんだと考える方が多いということを再認識する一方、今回のプログラムをきっかけに子どもと一緒に楽しい時間を美術館で過ごせると実感してくださったことをとても嬉しく思います。また、「私(大人)自身のリフレッシュ」という保護者の方の気分転換になったという感想も寄せていただくこともあります。子育て中は家族以外の大人と接する機会が少なくなる保護者の方が、このプログラムで「美術と絵本を考える会」のメンバーや美術館スタッフと何気ない話をすることも、息抜きの時間になっているようです。このプログラムは、こうした少し気分転換をしたいなという育児中の保護者の方のご参加も大歓迎です。 ご参加いただいたみなさん、ありがとうございました。またのご来館お待ちしています。そして、このプログラムに少しでも興味をもった方は、今後も開催を予定しておりますので、ぜひご参加ください。(※2)[F.A] ※1 「コレクション2 特集展示:メル・ボックナー」についてはこちらから ※2 今後の開催日時はこちらから --- 2023年4月26日(水) 1)10:30〜11:50 2)13:15〜14:35 3)15:00〜16:20 対象:0歳~未就学の乳幼児とその保護者 定員:各回5組10名 ---