12月17日、18日に、びじゅつあーすぺしゃる「やってみよう! 体験 体感 具体美術!」を開催しました。
「びじゅつあーすぺしゃる」は、作品鑑賞後に、その体験を振り返ったり、深めるために簡単な制作をするプログラムです。小学生とその保護者を対象に、年に2回程度開催しています。今回は「すべて未知の世界へ ― GUTAI 分化と統合」展(以降、具体展)に関連して開催し、23組53名の方にご参加いただきました。
毎回、取り上げる展覧会や作品に合わせて、どのような内容にすれば、展覧会や作品のエッセンスに触れることができるか、何度も試行錯誤を重ねて当日を迎えます。今回は、具体美術協会の作家たちによる行為に着目しました。いつもは鑑賞後に手を動かす活動を取り入れますが、今回は作家がやっていたような行為を体感することで、展示室で実際の作品を目にしたときに、作品をよりじっくり観察できるよう、展示室での鑑賞の前に手を動かす時間を組み入れました。
導入部分で、具体美術協会では、リーダーの吉原治良がメンバーに「人のまねをするな」、「これまでになかったものをつくれ」と伝えていたことなど、具体美術協会について簡単に触れました。短時間のプログラムでは、すぐに新しい発想で作品を作ることは難しいので、今回は「絵」について、次の3つのテーマを通して、みんなで考えたり、実際に体験してみることにしました。
1つ目は、「紙に何をする」というテーマで、紙に対してどんな働きかけができるかを考えました。まずは、「絵を描く」、「手紙を書く」といった普段紙をどのような行為で使っているかを思い出しました。次に、実際に作家がやっていたような「紙に穴をあける」という行為を体験してみました。梱包用の茶紙に竹串を使って穴をあけていきます。紙全体にバランスよくあけたり、一カ所に穴を集中させてあけてみたり。手を動かすスピードを速くしたり、遅くしたりすることで、その緩急によって穴の大きさが変わることに気づいた人もいました。穴をあける時の感触について「意外とかたい」と言う人や、連続してあけ続けていると「ストレス発散になる」と、行為を続けることで、非常に単純な行為に思えたことに対しても、発見や気持ちが芽生えてきたようです。紙の裏を見てみると、たくさんの突起ができていて、紙の凹凸を確かめている子どももいました。
少し気持ちも体もほぐれてきたところで、次は「絵の具をどうする?」というテーマで、絵の具でどんなことができるか、絵の具をどんな風に使うことができるかを考えてみました。今回は絵筆を使って、絵の具を紙にのせていく方法ではなく、「絵の具をたらす」という行為にチャレンジしました。四つ切りの画用紙の上にカップに入った絵の具をたらします。たらすスピードや向きによって、絵の具が点になったり、線になったりします。紙を傾けたりすると線が緩やかに伸びていきます。絵の具の様子がどのように変化するのか気になって、更に紙を折ったり、丸めたり、カップを使ってスタンピングする人もいました。具体的な何かを描こうとするときは、自分の意志で線をひいていきますが、今回のように、なかなか思い通りにはいかない絵の具で、どんなことができるか各々で考えていくと、「絵の具をたらす」という同じ行為をしていても、同じ絵はひとつとしてできあがらず、それぞれの違いを参加者同士で見比べていきました。
ある程度自由に発想できる段階になったところで、3つ目のテーマです。「そもそも絵って何?」と少し難しいお題を考えました。具体展の出品作家の嶋本昭三作『じぶんも知らないじぶんの絵』(ぬ書房、1977年)という本の中から、「画用紙がよごれちゃった」の内容をご紹介しました。ここでは、A子さんという人物が、他の4人と部屋に集まって絵を描こうとしたところ、風が吹いて花瓶が倒れたため、画用紙が水でよごれてしまったという設定で話しが進められます。嶋本さんは、登場人物による5パターンの答えを用意し、「あなただったらどのタイプですか?」と投げかけます。自分だったらどうするか小学生と保護者で話し合い、「新しい紙を買ってくる」や「よごれたシミを利用してかけばかえっておもしろいものができる」とそれぞれの考えを示しました。
3つのテーマを通して、絵に対する考え方がほぐれ、作品をつくる時のイメージが広がってきたところで、いよいよ、展示室での鑑賞に進みます。展示室では、小学生と保護者それぞれのペースで、ワークシートを用いて鑑賞しました。たくさんの作品の中から、「すごいな!」、「まねできないな!」と思う作品をいくつか見つけ、その中でも一番だと思った作品をスケッチすることをきっかけに鑑賞を深めました。
無数の穴が画面一杯にあけられた名坂有子《作品》(1962年)を見て、「とげとげがいっぱいですごかった」という子どもや、「同じことをこれだけ繰り返すのはしんどい。よくやれるな」と先ほどの自分の体験を思い出して、作家の動きとその凄さを体感している人もいました。他にも、小さな点や丸が無数に描かれた小野田實《作品64-H》(1964年)を一番に選んだ子どもは、スケッチしてはじめて丸が「小さいところも大きいところもありました。盛り上がっているところもあってすごかった」と気づき、作品の特徴をつぶさに観察していました。「びじゅつあーすぺしゃる」では、保護者は子どもの付き添いではなく、一人の参加者として活動するので、鑑賞時間中は、それぞれ気に入った場所を巡ることもあります。そのような時には、スタッフが小学生の参加者について、一緒にお話しながら、鑑賞していきます。
鑑賞が終わった後は講堂に戻り、それぞれ一番に選んだ作品について、ふりかえりました。多くの保護者が「自分には絶対思いつかない!」と作家の発想力に驚いていました。逆に「自分もやってみたい!」と意気込んでいるお子さんもいて、改めて具体美術協会の作家たちのエネルギーを感じていただける機会となったようでした。
ご参加いただいたみなさん、ありがとうございました。帰り際に「親子で参加できるプログラムは少ないので、今日は子どもと一緒に楽しめてありがたかった」という保護者からのお声もありました。今後も、体験や作品鑑賞を通して、親子のコミュニケーションを楽しんでいただけたら、嬉しいです。また次回もお待ちしております。[S.S]
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2022年12月17日(土)、18日(日)
10:30~12:30/14:00~16:00
対象:小学生とその保護者
定員:各回10組20名
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