10月5日に子どもの手話を育む「こめっこ」から、小学生16名とそのご家族8名が来館しました。「こめっこ」は、0歳から未就学のきこえない・きこえにくい子どもたちを対象に、遊びをとおして手話を獲得・習得する場を作っているNPO法人です。当館主催の未就学児と保護者対象プログラム「ちっちゃなこどもびじゅつあー 〜絵本もいっしょに〜」の「こめっこ回」を一緒に実施している団体です。(※1)就学したきこえない子どもたちが集う「もあこめ」の活動では、昨年に引き続き2回目の来館となります。(※2)
展示室に出発する前に、地下1階の講堂で当館と鑑賞作品について触れました。スクリーンに美術館の外観画像を映し、「何に見える?」と美術館スタッフが尋ねると、「うさぎの耳」と両手を耳の上に置きながら、外観の形について答える子がいたり、「棒がたくさんある」と建物を形づくる銀色のステンレスパイプについて発言する子もいました。次に作品画像を数点投影し、トークをしました。ヘンリー・ムア《ナイフ・エッジ》(1961/1976年)では、「体」「(右側が窪んでいて)ハートみたい」「かぶと」などのように見えると、子どもたちから発言がありました。ある子は、同作の画像を見て、どうして今の形に至ったのかまで想像したのか「台風に飛ばされて、壊れたように見える」と手話で話しました。ジャデ・ファドジュティミ《疑惑の領域を見渡す》(2021年)では、スクリーンに近づき、作品をじっと見て、「ちょうちょ」と手話で話す子もいました。別の子たちも「魚」「青い海」と作品を見てイメージしたものを次々と発言しました。他にも、それぞれ別の子から、「花火を下から見上げているみたい」と作品の中に入り込んだような発言や、「めちゃくちゃに描かれている(ように見える)」と描き方から受ける印象を話したりと、様々な話が飛び交いました。地下3階の「梅津庸一 クリスタルパレス」展(6月4日~10月6日、以下、梅津展)については展示の様子を写した画像で紹介しました。その際、《パームツリー》(2020-2024年)が写し出されている画像を見て「木でできているのかな?」と思ったことを積極的に発言してくれる子もいました。
講堂を出発して最初に、ジョアン・ミロ《無垢の笑い》(1969年)を全員で鑑賞しました。正面から見える場所で作品を見た後、レストラン前のデッキ、改札横のデッキに移動し、子どもたちの関心に応えつつ、地下1階の様々な場所から作品を眺めました。《無垢の笑い》を見るために改札横のデッキに行った時には、そこに展示されているマリノ・マリーニ《踊子》(1949年)に興味を持った多くの子どもたちが、作品の前に立って、上から下まで視線を何度も移したり、周りをぐるぐる回りながら、作品を見ていました。改札左横に展示されている《ナイフ・エッジ》でも、前から見たり、後ろに回ったりしながら、いろいろな角度からの作品の見え方の変化を楽しんでいました。高さが約3.5mもある作品の大きさに驚き、「大きい」と手話で美術館スタッフに伝える子もいました。
地下2階(※3)に移動し、気になる作品に散らばって、自由に鑑賞しました。高松次郎《影》(1977年)を見て、ある子は、描かれた影ではなく、影が映し出されていると思ったようで、中にいる人が影を作っていると思ったのか、半円形の作品と壁が接するところに小扉を見つけると、「この中に人がいる!」と、何度も美術館スタッフに話していました。別の子は、影の持ち主がいないと不思議に思ったようで、キョロキョロと作品の周りを確認した後に、「こめっこ」スタッフにそのことを手話で話していました。
梅津展では、展示室を進むごとに絵画作品や陶芸作品など異なるジャンルの作品が次々に登場することや空間全体が変化していくことが面白いのか、展示室をどんどん進んで行く子もいれば、時間をかけて1点1点鑑賞する子もいて、それぞれのペースで作品鑑賞を楽しんでいました。
講堂に戻って、美術館スタッフが「気になったもの、あったかな?」と尋ねると、子どもたちは、地下2階のマーク・マンダース《乾いた土の頭部》(2015-16年)やミケル・バルセロ《下は熱い》(2018年)、梅津展の作家の自画像などについて、次々と話しました。中には、各階の資料コーナーに並べられているカタログ等に興味を持ち、いろいろな作品をそれらの本の中では目にすることができるから、資料コーナーの本がよかったと話す子もいました。「こめっこ」スタッフが全体の感想を聞くと、ある子が「楽しかった。いろいろ見られたのがよかった」と手話で話しました。その子は、一見、終始落ち着かない様子でしたが、上記の感想以外にも印象に残っている作品を詳しく話していました。その様子から、集中していないように大人が思っていても、子どもたちは気になる作品の大きさや形などの特徴を把握して、記憶しているということを伺い知ることができました。その他の子の感想からも、子どもたちが視覚を研ぎ澄ませて、作品や美術館を楽しんでくれたということが伝わってきました。
「もあこめ」にご参加のみなさん、ご来館くださり、ありがとうございました。ぜひまた遊びに来てください![F.A]
※1 「ちっちゃなこどもびじゅつあー 〜絵本もいっしょに〜 こめっこ回」の紹介動画は国立国際美術館YouTubeチャンネルから
※2 昨年の活動の様子はこちらから
※3 地下2階コレクション展は、展示室内整備・修繕のため、開催していませんが、地下2階展示室の一部では、近年の収蔵作品と恒久設置作品を6月4日から10月6日まで展示しています。



