第18回中之島映像劇場 生存の技法—パーソナル・ドキュメンタリーの光—
リュミエール兄弟による発明から現在まで、映画というメディアは、大規模な予算で集団製作された商業作品の片隅で、個人的モチーフや家族との親密な時間、日常の静謐に広がる小宇宙を記録し続けてきました。本企画では、プライベートな領域にキャメラを向け、連綿と受け継がれる生命の営み、その生成・消滅のプロセスを見つめた映像作家の試みに焦点を合わせます。
成田空港建設反対闘争の現場を撮影した小川プロダクションで助監督をつとめた福田克彦は、山形に移住した小川紳介たちの下から単身で三里塚(千葉県成田市)に戻り、その土地で生きて闘う人々の姿と声を記録しました。代表作《草とり草紙》を含めたその映画は、監督自身を被写体としたわけではありませんが、集団に還元されないパーソナルな存在の輝きを捉え、またカメラの背後にいる〈個〉としての福田の息遣いを刻んだ、傑出したドキュメンタリーとして位置付けられます。石井秀人は、若くしてPFF(ぴあフィルムフェスティバル)入選作《家・回帰》を発表した後、2000年まで8mmフィルムによる個人映画を断続的に撮影し、自身と家族の抜き難い関係性、あるいは事物の存在や光そのものを見据える作品を制作しました。加藤治代は、映画美学校で故・佐藤真監督に師事し、癌になった母親との生活を記録した《チーズとうじ虫》を2004年に発表して、国内外の映画祭で高い評価を得ました。
福田は1998年に亡くなり、現在の石井と加藤は、映画制作から距離をおいています。しかし、限られた期間にそれぞれの作家が他者に誠実なまなざしを向け、撮影・編集の過程で自らを変容させていった痕跡は、いまも観る者に強く訴えかけるイメージとして残されています。
2019年は、ジョナス・メカスが亡くなった年としても記憶されるでしょう。メカスとその後継者たちが追求してきた日記映画の可能性、あるいは個人映画やパーソナル・ドキュメンタリーの系譜のなかで、映像制作と生きること自体の営みがどのように交わってきたか、再考する作業が求められています。
- 主催
- 国立国際美術館
- 協賛
- 公益財団法人ダイキン工業現代美術振興財団
- 開催日
- 2019年11月9日(土)、10日(日)
Aプログラム
- 福田克彦《草取り草紙》(1985年)
Bプログラム
- 福田克彦《逝けなかった魂》(1980年)
- 福田克彦《土の行進—三里塚一四年 青年たちはいま—》(1980年)
- 福田克彦《ヒーロー伝説 ザ・カオル》(1986年)
Cプログラム
- 石井秀人《家、回帰》(1984年)
- 石井秀人《風わたり》(1991年)
- 石井秀人《光》(1999年)
D プログラム
- 加藤治代《チーズとうじ虫》(2004年)