国立国際美術館

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第16回中之島映像劇場 関西の見者たち:ヴォワイアン・シネマテークの痕跡

ヴォワイアン・シネマテークは、1983年から1996年まで、関⻄を中⼼に活動した映像作家集団です。最初期のメンバーは、平⽥正孝、⼩池照男、奥⽥直史、瀬々敬久の4名で、アルチュール・ランボーの⾔葉「ヴォワイアン(⾒者)」をグループ名に掲げました。彼らは83年9⽉の旗揚げ上映会を⽪切りに、⾃作の発表に加え、国内外の個⼈映画・実験映画を関⻄で上映し、機関誌も発⾏しました。制作・上映・批評を通じて映像表現の可能性を拡げたその活動は、のちの関⻄の映像作家たちにも⼤きな影響を与えています。
ヴォワイアン・シネマテーク(以下「VC」で略記)のそれぞれのメンバーは、グループ結成以前から、8mmフィルムによる映画制作や⾃主上映に関わっていました。彼らの出会いの契機になったのは、京都で上映活動を続けていた⼭下信⼦が呼びかけ、81年に⾏われた「起き上がる12⼈の個的映像世界」という催しです。やがてVC が発⾜、奥⽥と瀬々の脱退後は、⼤⾕淳、櫻井篤史、⻘井克⼰、⼭元るりこ、⻄村美須寿が加わり、80年代後半に吉本陽⼀、向平真、柳瀬昇、⻄岡雪菜らも同グループに参加します。
13年にわたる活動期間に各作家たちは100本を超える作品を制作していきます。当時は、VCメンバーら関⻄の個⼈作家たちの作品を評し、情緒的な光や影の扱いや8mmフィルムの質感を強調する傾向から、「光線主義」と呼ぶ批評もありました。ただ、各作家の試みには、映画の直線的な時間や空間性を拡張する作品もあれば、⾃⼰や⽇常的な事象への眼差しを検証する作品、時代と社会状況に鋭い反応を⽰した作品なども存在します。また、90年には⾼感度8mmフィルムのエクタクローム160が、さらに93年にはコダクローム40が、国内での現像を中⽌させられました。その前後からVCの作家たちもヴィデオ作品を発表しています。こうしたメディアの変遷も踏まえ、VCメンバーそれぞれの軌跡まで検証する作業は、いまだ⼗分に進められていません。
またVCは、85年から『季刊ヴォワイアン』という機関誌をVol.1〜Vol.4まで発⾏し、実験映画・個⼈映画の紹介記事や批評を掲載しました。注⽬すべきは、全号を通じて同時代に活動していた⾃主上映グループや松本俊夫ら映画作家に、上映空間をめぐるインタヴューを実施している点です。実際、VCの活動の主軸は、京都・⼤阪・神⼾の三都市で開催した上映活動にあり、主催企画、共催企画、企画協⼒のイベントまで含めると、膨⼤な回数の上映会を開催していました。VCメンバーによる新作発表の上映会Image Linksとともに、関⻄で観ることが困難だった映像作品の上映を担ったのです。その動きは、88年に「映像ネットワークジャパンVIEW」に組織参画することで加速していきます。同時期にドイツ、ニューヨーク、ハンガリーなどとの繋がりも⽣まれ、VCメンバーの作品が海外で上映される機会も増加しました。
96年の活動停⽌後も、それぞれのメンバーが個⼈映画・実験映画の⾃主上映やその拠点を確保する活動を続けていきます。⼩池照男は96年から神⼾のギャラリーで年⼀回、〈映像のコスモロジー〉という上映会を開催してきました。また2015年には、櫻井篤史が林ケイタ、由良泰⼈とともに京都でLumen Galleryをオープンしています。
本上映会は、2018年11⽉3⽇から国⽴国際美術館で開催中の展覧会「ニュー・ウェイブ 現代美術の80年代」の関連企画として開催されます。先頃開催されたイメージフォーラム・フェスティバル2018の京都会場でもVCの特集プログラムが組まれ、再評価の機運が⾼まっています。ただ、唯⼀DVDで発売されている「ヴォワイアン・シネマテーク映像選集」を除けば、その作品に接する機会はまだまだ少ないのが現状です。今回の中之島映像劇場では、VCメンバーの作品の変遷を制作年代順にご覧いただきます。またVCによる⾃主上映活動や批評も含めた、多岐にわたる活動を回顧することで、関⻄の実験映像の歴史を再考していきます。具体的には、現代美術と当時のVCを含む実験映画や個⼈映画の接点を浮かび上がらせる試みとして、美術家・今井祝雄による特別講演を⾏います。今井も「ヴォワイアン」という⽴体作品を⽤いた都市空間での展⽰、パフォーマンスなどを⾏ってきた作家として知られていますが、かつて京都でのVC上映会に通うなど、メンバーとも交流がありました。さらにDプログラムでは、VCの上映活動に焦点を合わせたシンポジウムを開催します。中⼼メンバーだった平⽥、⼩池、櫻井の3名と、初期のVCの活動に間近で接していたフィルムアーキビストのとちぎあきらが登壇し、過去の⾃主上映活動の意義を掘り起こします。

主催
国立国際美術館
協賛
公益財団法人ダイキン工業現代美術振興財団
協力
Lumen Gallery、福岡市総合図書館
開催日
2018年11月10日(土)、11日(日)

Aプログラム:第1期

  • 小池照男《INSECT》(1983年)
  • 平田正孝《洸洸》(1986年)
  • 青井克己《東京蜜月》(1985年)
  • 櫻井篤史《残象の譜》(1986年)
  • 櫻井篤史《High-High》(1987年)
  • 瀬々敬久《ギャングよ、向こうは晴れているか》(1985年)

Bプログラム:第2期

  • 西村みすず《黄泉の真珠》(1988年)
  • 山元るりこ《その笑わない花》(1989年)
  • 向平真《W》(1989年)
  • 青井克己《Silent home》(1989年)
  • 櫻井篤史《VOYANT》(1989年)
  • 小池照男《生態系5~微動石~》(1988年)
  • 平田正孝《水の物語》(1991年)
  • 特別講演 「ヴォワイアンが見た/ヴォワイアンを見た:私的ヴィデオ・フィルム・アート」講師:今井祝雄(美術家)

Cプログラム:第3期

  • 山元るりこ《月がとっても青いから遠回りして帰ろ》(1991年)
  • 大谷淳《床にズームすること》(1992年)
  • 櫻井篤史《福間さんへ。》(1993年)
  • 柳瀬昇《花のように》(1993年)
  • 小池照男《生態系9~流沙蝕~》(1993年)
  • 柳瀬昇《ねたふり》(1996年)
  • 西岡雪菜《Bristlecornpine》(1991年)
  • 吉本陽一《YAKŌ/N-TREND》(1993年)
  • 青井克己《DATE》(1995年)
  • 櫻井篤史《木帰行》(1996年)

Dプログラム:シンポジウム「ヴォワイアンの上映活動」

登壇者:平田正孝、小池照男、櫻井篤史(以上、元ヴォワイアン・メンバー)、とちぎあきら(フィルムアーキビスト)
司会進行:田中晋平(国立国際美術館客員研究員)

 

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