会期:
2013年11月2日(土)~2014年1月19日(日)
「あなたの肖像」は、工藤哲巳が最も好んで使用した題名のひとつです。「あなた」とは、作品をご覧になるあなたのことであり、既成の価値観や約束事に縛られた私たちのことです。と同時に、自作の最初の観客である工藤自身をも指します。しかしそれはまた、今なお制御不能な状態が続く放射能による環境汚染から逃れられない人類の肖像でもあるのです。
眼球や鼻がトランジスタとともに養殖され、肥大化した大脳が乳母車に乗せられ、男性器が小魚と一緒に水槽内を泳ぎ、遺伝染色体による綾取りをする人物が鳥籠の中で瞑想するなど、工藤の作品はおぞましく不気味に見えるかもしれません。それは、悲惨な未来の地獄郷ではなく、そのようにしか生き残れない人間と自然とテクノロジーとが渾然一体となった、逆説的なパラダイスにほかなりません。
工藤哲巳(1935~1990)は、大阪に生まれ、少年期を父の出身地青森で暮らし、父が早世した後、母の郷里岡山で高校までを過ごしました。東京藝術大学在学中から、戦後の前衛美術の牙城であった読売アンデパンダン展に出品し、篠原有司男や荒川修作らとともに「反芸術」世代の代表格となりましたが、1962年に国際青年美術家展での大賞受賞を機に、渡仏。その後、約20年、パリを本拠に、ヨーロッパを活動の場として、文明批評的な視点と科学的な思考とを結びつけた独自の世界を展開し、1987年には母校の東京藝術大学の教授に就任しましたが、1990年55歳の若さで他界しました。
没後、国内では1994年に国立国際美術館で「工藤哲巳回顧展―異議と創造」が開かれましたが、近年、フランスやアメリカなど、国際的にも再評価の気運が高まっています。本展は、国内では20年ぶりの大回顧展で、国内外の代表作約200点が勢揃いします。
工藤哲巳 ハプニング「インポ哲学」 ブーローニュ映画撮影所(パリ)
1963年2月 撮影:工藤弘子 ©ADAGP, Paris & JASPAR, Tokyo, 2013
工藤哲巳 《X型基本体に於ける増殖性連鎖反応》 1960年
東京都現代美術館蔵 ©ADAGP, Paris & JASPAR, Tokyo, 2013
工藤哲巳 《あなたの肖像》 1963年 高松市美術館蔵
撮影:高橋章 ©ADAGP, Paris & JASPAR, Tokyo, 2013
工藤哲巳 《愛》 1964年 倉敷市立美術館蔵
©ADAGP, Paris & JASPAR, Tokyo, 2013
工藤哲巳 《あなたの肖像―種馬の自由》 1973年 米津画廊蔵
撮影:福永一夫 ©ADAGP, Paris & JASPAR, Tokyo, 2013
工藤哲巳 《石油と放射能の間での瞑想》 1979年 福岡市美術館蔵
©ADAGP, Paris & JASPAR, Tokyo, 2013
工藤哲巳 《未来と過去とのエンドレステープの間での瞑想》 1979年
青森県立美術館蔵 撮影:内田芳孝(ノマディック工房)
©ADAGP, Paris & JASPAR, Tokyo, 2013
工藤哲巳 《マザー・コンプレックス・パラダイス》 1980年 高松市美術館蔵
©ADAGP, Paris & JASPAR, Tokyo, 2013
工藤哲巳 《ブラックホールとワルツをどうぞ……》 1982年 個人蔵
©ADAGP, Paris & JASPAR, Tokyo, 2013
あなたの肖像―工藤哲巳回顧展 ギャラリートーク
講師:中井 康之(当館主任研究員)
あなたの肖像―工藤哲巳回顧展 国際シンポジウム「工藤哲巳をめぐって」
アメリカで初めて工藤哲巳回顧展を企画したドリュン・チョン(前・ニューヨーク近代美術館アソシエイト・キュレーター、現・M+美術館チーフ・キュレーター)、美術史家の富井玲子およびコーネル大学ロマンス語学科アシスタント・プロフェッサーのペドロ・エルバーを招き、本展の担当研究員とともに、工藤哲巳の特異な世界について、幅広い見地から意見を交わし、理解を深める機会とします。
あなたの肖像―工藤哲巳回顧展 上映会
記録映画「脱皮の記念碑 工藤哲巳の記録」(1970年)
あなたの肖像―工藤哲巳回顧展 ギャラリートーク
講師:島 敦彦(当館副館長兼学芸課長)
あなたの肖像―工藤哲巳回顧展 ギャラリートーク
講師:福元 崇志(当館研究補佐員)
あなたの肖像―工藤哲巳回顧展 上映会
記録映画「脱皮の記念碑 工藤哲巳の記録」(1970年)
ラウンドテーブル・工藤哲巳
工藤哲巳について、車座になって誰もがわけへだてなく対話するイベントです。
開館時間
午前10時~午後5時、金曜日は午後7時まで (入館は閉館の30分前まで)
休館日
毎週月曜日、年末年始(12月28日(土)~1月4日(土))
ただし、11月4日(月)、12月23日(月・祝)、1月13日(月・祝)は開館、
11月5日(火)、12月24日(火)、2014年1月14日(火)は休館
観覧料
個人:一般850円/大学生450円
団体:一般600円/大学生250円