会期:
2013年1月19日(土)~3月24日(日)
国立国際美術館では映像による作品を中心とした特別展「夢か、現か、幻か」を開催します。
過去一世紀にわたってかつてないほど技術革新が進み、グローバル化が果たされ、高度な情報が差異なく瞬時に溢れる現代社会に生きる私たちは、目まぐるしいほどの変容を日々経験しています。そのような日常生活を送る上で、「現実」として呈示された事象が時にまるで夢の中での出来事のように思えたり、果てしなく虚構化されたものとして経験することがあります。その一方で「虚構」に示されたリアリティがより強度を増し、「現実」と変わりないものとして作用することもあり、創造されたものとリアリティとの境界が曖昧になっていると感じさせられもします。
芸術の領域では、リアリティの概念がほとんどの場合リアリズムと結びついてきました。そして写真が登場した時には、絵画に代わりありのままの現実を写し撮る機能を持つとされましたが、既に写真はその機能を常には伴わず、必ずしも現実を真実として留めているのではないことは明らかです。やがて映像表現が登場し、CGなどのコンピューター処理やデジタル技術が駆使されることで、「現実」には存在しない光景がリアリティを持ちながら映し出されたり、例えばドキュメンタリー性を持つ映像が明確な意志のもとに編集され、創作されたりすることで、リアリティを離れ虚構のものとして眼前に示されることもあります。
このようにいま、「現実」と「虚構」との間に明確な境界線を失いつつある現代社会の有り様を鏡写しにしたかのような映像作品が、次々に登場しています。そして作家たちは、その虚実ないまぜとなった作品の中で「真実」の行方を私たちに問いかけます。「虚構」として創られたものに「真実」は存在しないのでしょうか?はたまた「現実」とは「真実」なのでしょうか?「現実」が「虚構」になることで「真実」はゆらぎ、また「虚構」が「現実」として構築されることで、「真実」が立ち現れようとします。
本展覧会ではさわひらき、柳井信乃といった2名の日本人作家を含め、国内外の作家10名による映像作品を主に集め展示します。ドイツの作家クレメンス・フォン・ヴェーデマイヤーは、フィリピンで1960年代に実際に起こった「タサダイ族」と呼ばれる未開民族を発見したと世界を騙した出来事を素材にした作品を出品。現実と造られた情報の中から、真実はどこにあるのかを探ります。フィンランドのエイヤ=リーサ・アハティラはキリスト教美術において古くから重要なテーマである受胎告知を取り上げ、人々がいかにイメージを受け取るのかを映像で表現します。また台湾の作家杜珮詩(ドゥ・ペイシー)は、アジアで起こった過去の出来事に関連する60名の写真イメージを引用し、色鮮やかなアニメーション画像と結びつけ、悲劇的歴史の真実と現在を結びつけます。
情報や映像が氾濫する現代社会において、映像表現に呈示された現実や虚実における本質的な「真実」の所在を考察しようとするものです。
【出品作家】
エイヤ=リーサ・アハティラ Eija-Liisa Ahtila(フィンランド出身、ヘルシンキ在住)
シプリアン・ガイヤールCyprien Gaillard (フランス出身、ベルリン在住)
ヨハン・グリモンプレ Johan Grimonprez(ベルギー出身、ブリュッセル在住)
さわひらき Hiraki Sawa(石川県出身、ロンドン在住)
饒加恩(ジャオ・チアエン) Chia-En Jao(台湾出身、台北在住)
チョン・ソジョンSojung Jun(韓国出身、ソウル在住)
杜珮詩(ドゥ・ペイシー) Pei-Shih Tu(台湾出身、台北在住)
スティーヴ・マックィーンSteve McQueen(イギリス出身、アムステルダム在住)
クレメンス・フォン・ヴェーデマイヤー Clemens von Wedemeyer(ドイツ出身、ベルリン在住)
柳井信乃(ヤナイシノ) Shino Yanai(奈良県出身、横浜在住)
エイヤ=リーサ・アハティラ ≪受胎告知≫ 2010年
©Crystal Eye Ltd, Helsinki
Courtesy of Marian Goodman Gallery, New York and Paris
Photo©Antti Ruusuvuori
シプリアン・ガイヤール ≪Artefacts≫ 2011年
©Cyprien Gaillard
Courtesy Sprueth Magers Berlin London
国立国際美術館蔵
さわひらき ≪Lineament≫ 2012年
©Hiraki Sawa courtesy of Ota Fine Arts and James Cohan Gallery
饒加恩(ジャオ・チアエン) ≪レム睡眠≫ 2011年
©Chia-En Jao
チョン・ソジョン ≪最後の喜び≫ 2012年
©Sojung Jun
杜珮詩(ドゥ・ペイシー) ≪ヴィジブル・ストーリー≫ 2012年
©Pei-Shih Tu
Courtesy of Project Fulfill Art Space, Taipei
クレメンス・フォン・ヴェーデマイヤー
≪死への抗い(「第四の壁」から)≫ 2009年
©Clemens von Wedemeyer, VG Bild-Kunst
Courtesy KOW, Berlin & Galerie
Jocelyn Wolff, Paris
柳井信乃 ≪UTSUTSU NATION≫ 2012年
©Shino Yanai
ヨハン・グリモンプレ ≪dial H-I-S-T-O-R-Y≫ 1997年
Leila Khaled, Palestinian Hijacker, Amman, August 1970 (color image)
Still from dial H-I-S-T-O-R-Y, Johan Grimonprez, 1997
Photography: Johan Grimonprez & Rony Vissers
Courtesy of Zapomatik
スティーヴ・マックィーン
≪ワンス・アポン・ア・タイム≫ 2002年
Courtesy of the artist and Thomas Dane Gallery, London
夢か、現か、幻か アーティスト・トーク
エイヤ=リーサ・アハティラ、柳井信乃(出品作家)
夢か、現か、幻か アーティスト・トーク
さわひらき、杜珮詩(ドゥ・ペイシー)(出品作家)
夢か、現か、幻か 講演会
講師:植松由佳(当館主任研究員、本展企画者)
夢か、現か、幻か リレー・トーク
「東アジア各国の現代美術事情-映像作品を中心に」
チョン・ソジョン(出品作家)、イ・スヨン(韓国国立現代美術館キュレーター)他
夢か、現か、幻か リレー・トーク
「東アジア各国の現代美術事情-映像作品を中心に」
饒加恩(ジャオ・チアエン)(出品作家)、鄭慧華(チェン・ホェイファ)(インディペンデント・キュレーター、美術評論家)、他
開館時間
午前10時~午後5時、金曜日は午後7時まで (入館は閉館の30分前まで)
休館日
毎週月曜日(ただし2月11日(月・祝)は開館、2月12日(火)は休館)
観覧料
当日 一般850円 /大学生450円
団体 一般600円 /大学生250円