会期:
2005年4月29日~7月18日
1970年以降の具象的表現
20世紀初頭に抽象化が始まって以降の欧米の美術は、全体として、ふだん目にする世界との関係は弱まり、断片的かつ分析的になり、またコンセプトを重視する傾向がどんどん強くなってゆき、1970年代にその限界に到達しました。特にヨーロッパの具象彫刻は、抽象的で観念的な傾向が強まる時代風潮の中で、先細りするばかりでした。
シュテファン・バルケンホールは、まさにそのような1970年代に学生時代を過ごしました。彼は、当時のシンプルで隙のない芸術を高く評価したものの、自分の生きる時代に一層ふさわしい芸術を創造したいと考え、当時見向きもされなかった具象彫刻の可能性を模索しました。結果、誕生したのが、木による人物や動物の彫刻やレリーフであり、風景のレリーフです。それらは、古代エジプトから20世紀初頭までの数千年におよぶヨーロッパの彫刻を学びなおした結果であり、特にミニマルアートの成果を取りこんだ類例のない木の彫刻とレリーフといえるでしょう。
『コレクション1』においては、1970年頃から現在までの具象的作品を展示しています。人物や動物や風景を題材にしたそれらの作品は、見かけ上は具象的であっても、単に写実性を競ったものではありません。それらは、戦後復興後の反映と平和、また大衆化現象、さらには科学技術の発展のもとで、芸術家めいめいが、時代の空気を吸いながら、美術における問題意識や自己の関心事を造形化した作品です。
各芸術家が表現しようとしている内容は、現代社会が一言では説明しきれないのと同じく変化に富み、各人の価値観や生活環境や世代などの相違、また制作年の相違などに応じて異なっています。技術面から見ても同様で、伝統的なブロンズ彫刻や油彩画や銅版画だけではなく、従来美術に用いられることのなかった意外な技術による作品も含まれています。現実を正確に写し取ることができる写真技術が、さまざまな用いられ方をしていますが、それはこの時代の具象的表現の重要な特徴でもあります。これら過去数十年の多種多様な具象的作品は、全体として、現代という時代を照らし出しているのではないでしょうか。