会期:1999年10月21日~12月5日
高松次郎(1936−1998)は、1960年代から70年代にかけて、作品はいうにおよばず言説においても我が国の現代美術をリードした重要な美術家だった。周知の通り、彼は1998年6月に闘病の甲斐なくなくなった。当館には高松のモニュメンタルな<影>の壁画があり、そのためもあって、生前から<影>の絵画とドローイングによる小さな展覧会を計画していたが、早世を悼む意味もあり、今回規模を広げて、<影>の絵画とドローイングによる回顧展を開催することになった。没後、我が国の美術館で初めて開催される回顧展である。
高松の作品は、<点>、<紐>、<影>、<遠近法>、<波>、<単体>、<複合体>、<熱帯>、<原始>など数多くのシリーズから成り立っている。休むことなく展開し続けることを強いられたという意味で、彼もまたモダニストの宿命を背負っていたことになるが、虚構と現実のきわどいバランスを明快に表現しようという意図は、つねに一貫していた。一つの課題をさまざまな角度から検証しようとしたわけである。
なかでも<影>は、高松にとって格別の思い入れがあるシリーズだったようである。何度も繰り返して制作されたこと、亡くなる直前にも<影>の新作を発表したことなどから、それはうかがえる。今回の展覧会は、高松の代表的なシリーズといえる<影>の絵画とドローイングに焦点をあてた。実在するものを越えて「不在性」を探求した高松の<影>は、いまの若い美術家たちにも大きな刺激を与えた。一つの時代を画した<影>の全貌を、ご遺族の全面的な協力のもとに明らかにした。出品点数は、当館所蔵の大作を含めて絵画約30点、ドローイングと資料約100点だった。