会期:1998年6月4日~7月28日
線とは絵画や彫刻をかたちづくる最も基本的な造形要素の一つと考えられている。しかしあらためて線とは何かということを考えてみるならば、その答えは決して容易には見つからない。この展覧会では館蔵品を中心に日本と海外の40人あまりの作家の約80点の作品を展示し、戦後美術における線の意味を検証した。戦後美術においては、まず線の問題をとおして西欧と日本との間に思いがけない関係が生まれた。1950年代に日本で展開された前衛書は西欧の抽象絵画に大きな影響を与えたが、文字という制約を受けざるをえない書と、自発的なストロークにより積極的な意味を見出した絵画とは次第に別の道を歩むこととなった。何かを表象する線からそれ自体が自立した線へ、戦後の抽象絵画のこのような出発点はモダニズム美術の展開に応じており、この過程で多くの優れた作品が制作された。この一方で線はひとつの単位、指標として絵画や空間を規定し、概念的な作品の中で駆使されるとともに、立体作品においては現実の空間の中に放たれ、あるいは空間を分節する重要な単位として再発見された。この展覧会では50年代から80年代までの間に、線という要素が美術作品の中でみせたさまざまな表情をいくつかのテーマに沿って概観し、現代美術を見通す一つの視点を提供した。