会期:1982年12月4日~1983年 1月18日
小規模な個展などはあったものの、ジョージ・シーガルが本格的に紹介されるのは、わが国では本展が初めてである。1965年の《仮装パーティー》から 1982年のレリーフ《胸にかかる手》まで21点による構成で、当館蔵の《煉瓦の壁》(1970年)以外は、いずれもアメリカから借用されたものである (借用先はバンクーバー美術館、ジョスリン美術館、シドニー・ジャニス画廊および作家)。
シーガルは1961年に人体から直接型取りした石膏の人間像の制作を開始したが、その技法は1971年を境に大きく変化している。前期はいわゆる「アウトサイド・キャスティング」と呼ばれるもので、石膏液を含ませた包帯を巻き付けて取った雌型の外側がそのまま生かされており、石膏の厚みでやや鈍くなった形に特徴がある。出品作では《仮装パーティー》から《断片・休息している娘》(1970年)までの5点がそれに当たる。《ベッドの娘Ⅲ》(1973年)以降の16点は、基本的には、雌型からさらに雄型を抜いた「インサイド・キャスティング」であって、より繊細に人体の細部が再現されている。石膏像の特異な存在感に加えて、こうした技法による表現の違いの対比にも、多くの観客の関心が寄せられた。
また《仮装パーティー》(作家蔵)は、1970年の万国博美術館にも出品されていた作品だが、当時と今とでは、シーガル自身の手によって彩色や小道具が変更されていること、さらに最近作のレリーフの小品では、石膏のかわりに特殊な紙が用いられていること等、さまざまな修正や実験がなされていることも興味深い問題であった。
作品形態は、人間像と日常的なオブジェ等を組み合せてある状況設定をした作品(14点)と、レリーフ状の作品(7点)に大別される。展示にあたっては、とりわけ前者の演出効果に留意し、あえて制作年にはこだわらず、展示室の壁面やコーナーを利用して、屋外、室内、夜景などの状況に応じた配置を試みた。使用会場は1階のA室とB室であるが、外光の入らないB室では方向性の強いスポットライト中心の照明で、作品の臨場感を強調した。
なお本展は当館開催に先立って、東京の西武美術館、軽井沢財団法人高輪美術館、富山県立近代美術館、倉敷の大原美術館の4館を巡回した。