巨匠・ブールデル展

会期:1983年 3月12日~5月15日

エミール=アントワーヌ・ブールデル(1861−1929)は、ロダンと共に彫刻の近代化に大きな役割りを果した芸術家の一人である。師のロダンが、生気に欠けた表面的な写実主義に陥っていた当時の彫刻に、若々しい生命力とドラマティックな造形表現とをもたらし、近代彫刻に新鮮な息吹きを与えたのに対して、ブールデルは、たくましい骨組みと充実したヴォリュームによる力強い空間構成を追求し、彫刻を単なるマッス(量塊)だけの造形としてあつかうのではなく、ひとつの空間表現として捉え、現代彫刻への道を拓いた先駆者であった。こうしたブールデル芸術の革新性、現代性をあますところなく紹介すべく企画された本展は、彫刻112点に水彩・デッサン28点を加えた140点で構成された。
特に今回は、パリのブールデル美術館の全面的な協力もあって、《モントーバンの戦士》、《風の中のべ一トーヴェン》、《うずくまる浴女》、《弓を引くヘラクレス》、《叙事詩》、《サッフォー》など、ブールデルの各時期を代表する大作や重要な作品が網羅されており、ブールデル芸術の全容を知る上で、質的にも量的にも本格的な展観となった。さらに今まで日本に紹介されたことのなかった《瀕死のケンタウロス》や《聖母子》、パリのシャンゼリゼ劇場の内外を飾る一連のレリーフ(ブロンズにぬいた作品)などが含まれていた点も、従来のブールデル展に較べて大きな特色となっていた。
なかでも、シャンゼリゼ劇場のファサードを飾るために制作された8面のレリーフは、建築と彫刻の一体化をねらったブールデルの野心作で、建築全体とのみごとな調和と統一をみせており、ブールデルの「建築家的彫刻家」としての資質を充分に物語る作品として高く評価されているが、そのうちで、劇場入口上部を飾る5面のレリーフ、《音楽》、《舞踏》、《喜劇》、《悲劇》、《建築と彫刻》が一挙に公開されたのに加えて、劇場入ロホールを飾る《熱烈なる魂》、《壮烈なる魂》の2面のレリーフも併せて出品されたことは、本展の大きな見どころのひとつであった。また、様式化された表現と巧みな機何学的構成をみせる《瀕死のケンタウロス》、《聖母子》の2点の大作が初めて公開されたことも、《サッフォー》のような作品と共にブールデルの彫刻がもつ構築性、建築的性格を理解するうえで恰好の機会となった。この他、ブールデルが自らの愛や苦悩をその悲劇的な生涯に重ね合わせながら40年以上にわたって制作し続けた「ベートーヴェンの肖像」シリーズ45種のうち6点が集められたこと、師ロダンの作風からの決定的な離脱をみせる記念的作品「アポロンの首」シリーズのひとつ《アポロンの首(小台座)》、また《モントーバンの戦士》、《叙事詩》、《アルヴェアル将軍騎馬像》のようなモニュメント彫刻の部分や習作が数多く含まれていたことは、ブールデル芸術の全体像をあらためて見つめ直すことに大いに役だった。
会場には、4、3階の展示場をあて、3階ロビーでは、会期中シャンゼリゼ劇場のための装飾レリーラ制作の過程を解説する「ブールデルとシャンゼリゼ劇場」のビデオ・フィルムを放映した。また、社会教育、学校教育としての展覧会事業の役割の一環として、今回初めて、大阪市立盲学校小学部、中学部の児童、生徒約30人を招待し、直接手でブールデルの作品に触れることによって彫刻についての理解を深めてもらい、大きな成果をあげた。

なお、本展は当館以外に下記のように巡回した。
北海道立近代美術館/昭和57年7月24日−8月29日
山梨県立美術館/9月11日−10月24日
姫路市立美術館/昭和58年6月15日−7月25日

  • 入場者:総数17,217人(1日平均307人)
  • 主催:国立国際美術館
  • カタログ:「巨匠・ブールデル展」
    24×25.7cm/176ページ/カラー18ページ/白黒76ページ
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