会期:1979年8月17日~9月25日
1957年発足以来、「版画の国際的認識と普及向上」を目的に運営されてきた東京国際版画ビエンナーレ展は、世界各地の現代版画の国際コンクール展のなかでも、その存在を高く評価されているもののひとつである。
第11回展にあたる今回も、個人参加を原則とし、世界を3地域に分け、各地域ごとに4~5人のコレスポンダントと日本側コミッショナーとの協議によって招待作家を決定するという第9回展以来の方法をとっている。その結果、第1地域のアジア、オセアニア、中近東からは42名107点、第2地域のヨーロッパ、アフリカからは33名95点、第3地域の南北アメリカからは24名60点、計3地域99名262点の参加を得た。ネルロ・ポネンテ(イタリア)、L・P・シハール(インド)、E・L・L・デ・ヴィルデ(オランダ)、中原佑介、本間正義の5人から成る国際審査委員会の審査の結果、国際大賞以下9つの賞が別記のように決定され、国内の各美術館から7つの賞が提供された。また第11回展国際審査委員会は、ジョン・ケージの作品に対して特別に敬意を表し、その栄誉を讃えることを決議した。
戦後、現代美術は様々に変貌をとげ、その表現や形式は著しく多様化しているが、版画も又、同様の苦悩を共有し模索を続けている。今回の展覧会では、いわゆる「版画」と「版による作品」という問題をはじめ、今日の版画が抱えている様々な問題が提示されることとなった。国際大賞を受賞したスタルチェフスキーのアルファベットを空刷りで刻印した作品や、国立国際美術館賞を受賞したアラン・グリーンのソフトグラウンド・エッチングによる作品などはオーソドックスな「版画」であり、島州一のマス目状に並べた版画の上に砂や漏斗などを組みあわせた作品や、山中信夫のピン・ホール・カメラによる作品などは、版画の持つ「転写」という特性を広義に解釈した「版による作品」ということができよう。このように、様々な技法と表現内容とをもった作品が出そろった感があった。その中で、北海道立近代美術館賞を受けた河口龍夫の手漉き和紙の中に鉄のカスガイを漉き込んだ作品のように、「版」としての世界に手漉き和紙が登場したことは、「版」の可能性を広げたものとして注目された。
全体に、どうしても版画でなければという必然性に乏しい作品が多く、今回もまた、「版画とは何か」という点について考えさせられることとなった。
なお、この展覧会は大阪展に先立って、6月29日から8月5日まで東京国立近代美術館で、大阪展以後、10月6日から10月28日まで北海道立近代美術館で開催された。
受賞作家と作品は次のとおり
国際大賞(国際交流基金理事長賞) アントー二・スタルチェフスキー《1t. 10.g》
東京国立近代美術館賞 ユルゲン・シーファーデッカー《ボイスが明るくする》
国立国際美術館賞 アラン・グリーン《中心から縁ヘ-黒-緑》
北海道立近代美術館賞 河口龍夫《関係一質》
外務大臣賞 オク=スン・チン《答'78-L》
文部大臣賞 森本洋充《エレベーターの隅 No.2》
佳作賞 磯崎新《内部風景Ⅰ ストンボロウ邸-ルートウィッヒ・ウィトゲンシュタイン》
佳作賞 ロムロ・オラソ《順列 No.2-本》
佳作賞 ビスヌ・スパニミット《自然の力》