国立国際美術館

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鑑賞サポートツール

たてもの鑑賞サポートツール完成報告と活用検討会

2024年2月17日(土)

2月17日に「たてもの鑑賞サポートツール完成報告と活用検討会」を開催しました。今回、完成報告をした「たてもの鑑賞サポートツール」(以下、ツール)は、見えない、見えにくい、見えるにかかわらず、だれもが建物を楽しむことができる触察(※1)ツールの開発を目指して、2023年9月9日、10日「みる+(プラス) 何を知りたい? 感じたい? 国立国際美術館の触察ツールをみんなでかんがえよう」(※2)と、その参加者の有志メンバーが集結した、11月18日「たてもの鑑賞サポートツール検討会」(※3)を経て、完成しました。
当日は、午前に9月のプログラムに参加した、見えない人1名と見える人1名、午後にすべてのプログラムに参加した見えない、見えにくい人3名、見える人8名の計13名が参加しました。また、一連のプログラムの講師でありツールの制作・監修者である宮元三恵さん(アーティスト・東京工科大学教授)と技術協力の御幸朋寿さん(東京工科大学専任講師)にお越しいただきました。

今回、完成報告したツールは、「全体模型」「地下1階組み立て式模型」「断面模型」「外観模型」「さわれるマップ」の全5種です。まず、宮元さんがこれまで参加者と検討したことが、これらのツールにどのように反映されているのか話しました。その後、これらのツールの活用について考えながら、それぞれの参加者が建物を楽しむために効果的だと思う順番でツールを体験しました。

美術館の建物全体の空間構成を再現した「全体模型」と、着脱可能なパーツによって地下1階の空間を再現した「地下1階組み立て式模型」は、宮元さんが9月のプログラム開催に合わせて試作版として用意くださったツールです。

「全体模型」は、検討会での参加者からの意見を参考に地上1階部分を加え、美術館の建物全体を把握できるツールとして完成しました。
今回、このツールについて、細かい部分や情報量が多いので、見えない、見えにくい人の中でも触察上級者向けではないかという感想が聞かれました。その一方で、見えない参加者からは複雑だからこそさわりたいと思えるツールであり、「全体模型」で興味を持った部分について他のツールでさらに詳しく確認するための導入として活用できるのではないかとの意見がありました。

同じく9月のプログラムのために考案された「地下1階組み立て式模型」も検討会での意見をもとに、見えにくい人が少しでも視認しやすくなるよう、人が立ち入らないエリアを濃い色にし、人が立ち入るエリアとのコントラストをつけました。また、さわった際に柱等の細かいパーツが取れてしまうことを防ぐため、磁石による着脱式に変更するなどしました。合わせて、人型の人形を自由に配置することで、建物の実際のスケールをある程度把握できるようにしました。
他にも、建物の一つの特徴である壁の緩やかなカーブ等も再現しているからこそ、見えない参加者から「このツールをさわって、建物の特徴的な部分(壁のカーブ等)を把握した後、ツアーで(その部分が)実際にどうなっているのかを確認するとよいのではないか」との意見がでました。また、同じ見えない参加者からは「全盲の人がこのツールを複数人でさわると他の人と手がぶつかってさわりにくいので、使う時は二人ぐらいで」といった活用時に留意すべきことについても話が及びました。

「断面模型」は、9月のプログラムで、当館の建物の最も大きな特徴の一つである、地上1階から地下3階の吹き抜け部分を見えない人、見えにくい人、見える人全員で共有できるツールが必要だという声から生まれました。その試作版を11月の検討会でさわった見えない参加者からの触察している手が吹き抜けから落ちてしまう感覚が怖いとの意見を参考に、吹き抜けの縁に段差を付けるなどの改良を加えました。
また、見えない、見えにくい、見えるにかかわらず多くの参加者から検討会で聞かれた、地下1階から地下2階に渡って展示されている恒久設置作品の場所を示してほしいという意見を採用して、アレクサンダー・コールダー《ロンドン》(1962年)の概ねの展示位置をふれることでわかるように突起で表しました。ジョアン・ミロ《無垢の笑い》(1969年)については、壁面に木製のパネルを貼ることで再現しようとしましたが、パネルのみでよいのか、パネルに格子状の溝を付けることによって、陶板が並べられて一つの作品になっていることを強調した方がよいのか判断できず、格子サイズが異なる3枚の木製パネルも用意して、どのような再現方法がよいのか、あらためて参加者に確認することにしました。今回、見えない参加者に確認すると「実際のミロの作品が陶板でできているのだから、木製パネルであることにこだわらず実際の作品に近い素材で表してみてはどうか」と新たな提案がありました。それを受けて、他の見える参加者からは「ミロ(の部分だけでも)より(実際に近い)特徴的な素材で表されることによって、建物を楽しむところから作品鑑賞への入口になるのではないか」との意見もでてきました。

「外観模型」は、「断面模型」と合わせて活用することを目的に美術館の外観部分が簡易に再現されたツールです。検討会での意見を活かして、美術館の入口がわかるように改良されました。

木製のパネルでできた館内各階(地上1階から地下3階まで)の触地図(※4)のような「さわれるマップ」は、検討会での持ち歩く時に便利なようにどこかに穴をあけて紐を通せるようにしておけばよいのではないかというアイデアを活かして穴をあけました。
今回は、それらのパネルがバラバラにならないように使いやすさを重視し、紐を通して準備しました。持ち歩くために軽量に作られているとはいえ、4枚の木製パネルともなるとそれなりの重さがあるため、見える参加者から「館内ツアーの際にはサポートする人がツールを持って、見えない、見えにくい人が必要な時に使う、ではどうか」との提案もありましたが、見えない参加者は「確認したいときにすぐにさわれる、(誰にも頼むことなく)気兼ねなく確認できることが大切」と話していました。
ツールの使い方を検討していく中で、見えない、見えにくい人が誰かに頼ることなく、自ら率先して動ける機会を日頃から求めているということを再認識する機会となりました。

参加者がすべてのツールを体験した後、全員でツールの今後の活用について話し合いました。
この中で、見えにくい参加者から「ツールと現地(美術館内)を丁寧に繰り返す(行き来する)ことが大切」という意見と、そのご家族である見える参加者から「(ツールで建物について確認することと、美術館内を実際に歩くことを)繰り返すことで、(見えない、見えにくい人が)一人でも美術館に来られるようになるかなと思わせてくれる」との話しがありました。誰の付き添いもなく、見えない、見えにくい人だけで美術館を楽しむことは難しいと感じてしまうかもしれないが、ツールを活用しながら何度も美術館内を歩き、ツールで場所を把握する経験を積むことで、一人で美術館を楽しむことができるようになるのではないかと可能性を感じているようでした。別の見えない参加者からは「(多様な複数種類のツールの中から)ツールを選択できることで参加者(が求めていること)に合わせることができる。ツールだけではなくその活用には会話が必須」との話しもありました。
ここで、講師の宮元さんから、今回のように、見えない、見えにくい、見える人が一緒に体験を共有していくことで、それぞれの感じ方、受け取り方の差異を感じるプログラムと、障害の有無や種類、置かれている状況の違いによって対象者を分けて実施するプログラムとどちらが良いかという問いかけがありました。この問いに対して、多くの参加者は本プログラムでの体験をもとにしながら、対象者を分けない方が、見えない、見えにくい、見えるというそれぞれの立場で感じたこと、考えたことを参加者間で直接共有でき、新たな気づきが生まれるのではないかと答えました。
また、ある見える参加者は、9月からのプログラムを通じて得られた、建物も作品同様に鑑賞の対象になるという経験から「建物を楽しむのであれば展示室以外でもできるので、障害をもっていても気兼ねなく鑑賞できる。美術館の建物にはそうゆう可能性がある」と話しました。こうした気兼ねなく楽しめることの大切さにふれる発言を受けて、別の見える参加者からは「(こうしたプログラム時に限らず)お互いの意見が気兼ねなく、いつでも交換できる場が美術館にあるとよい」と応答し、多くの参加者が頷きながらその発言内容を真剣に聞く場面もありました。

本プログラムは、美術館の建物を体験・鑑賞することの可能性を探すところからスタートしました。そして、建物についてそれぞれが感じたこと考えたことを共有するためのツールを検討する中で、ツールはあくまでもそのきっかけであり、人と人との対話、関わりの中で体験が深まっていくのではないかと実感することができたのではないでしょうか。だからこそ、今回の報告会ではツールを活用した今後の展開にとどまらず、人と人との対話を生み出す場を作るためには何が必要なのか、ひいては美術館があらゆる人にとってどのような場(存在)であるべきなのかといった根源的なところにまで話し合いが及んだのではないかと思います。

長期間にわたりご参加いただいたみなさま、ありがとうございました。ツールを活用した今後のプログラムにもぜひご期待いただければ幸いです。 [K.Y]

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