国立国際美術館

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鑑賞サポートツール

たてもの鑑賞サポートツール検討会

2023年11月18日(土)

11月18日に「たてもの鑑賞サポートツール検討会」を実施しました。この検討会には、9月9日、10日に開催した「みる+(プラス) 何を知りたい? 感じたい? 国立国際美術館の触察ツールをみんなでかんがえよう」(※1)の参加者のうち、見えない、見えにくい人4名と見える人9名の計13名が参加しました。見える、見えないにかかわらず参加者と共に、だれもが建物を楽しむことができるような触察ツール(※2)を検討、開発するために実施した、この「みる+(プラス)」に引き続き、本検討会では、前回のプログラムでの検討事項をもとに、講師の宮元三恵さん(アーティスト・東京工科大学教授)と技術協力の御幸朋寿さん(東京工科大学専任講師)が改良された、たてもの鑑賞サポートツール(以下、ツール)をさわってみて、最終のツール完成に向けてさらに意見を交わしました。

参加者のみなさんによる簡単な自己紹介と前回のふりかえりからスタートしました。9月に開催した時は土曜日と日曜日に分かれて実施したため、今回の検討会で初めて会う参加者もいます。前回のプログラムでどのようなことを感じたのか、プログラム終了後から今日の検討会までにどんなことを考えたのかなど、内容は多岐に渡り、1人1人の話を興味深そうに耳を傾けている様子が見られました。
全員の自己紹介とふりかえりが終わると、講師の宮元さんが、今回用意したツールの前回からの改良点や、技術的に修正が難しかった点などを説明しました。
前回のプログラムでは、机の上にすべての種類のツールを並べ、さわる順番は特に指定せず、参加者は自由にさわり、感想や意見を述べ合いました。対して今回の検討会では、ツールをさわる人たちがより段階的に美術館の建物を把握していけるような順番で、見えない人、見えにくい人の2~3人のグループごとにさわっていってもらいました。その際、グループの話し合いを後で全体共有できるように、見える参加者が各グループ内で交わされた話を付箋にメモ書きして、各ツールの横に残しました。

最初に、木製のパネルでできた、国立国際美術館の周辺環境を知るための触地図(※3)にさわりました。当館の最寄り駅であるOsaka Metro 四つ橋線の肥後橋駅から当館に向かうことを想定して、道路だけではなく、道中にある土佐堀川や土佐堀橋、大阪市立科学館や大阪中之島美術館など周辺の建物との位置関係をさわりながら知ることができるツールです。このツールに関しては、あくまでも「地図」であることから、できるだけ事実通りに、建物の周りの植え込みなども表現しましたが、「情報量が多すぎるのではないか」という声があがりました。また、道路や建物の部分が高くなるように凹凸をつけましたが、「国立国際美術館が強調されず、わかりづらい」「目的の美術館の高さを強調したらいいのでは」「川・道・木で素材を変えてみる」などのアイディアが出ました。このツールで多くの参加者が疑問として投げかけたのが、「このツールは、何を理解するためのものなのか」ということでした。これから紹介する他のツールが美術館の建物を鑑賞することを目的とするならば、このツールの目的は鑑賞ではなく、あくまでも、駅からの道のりを確認したり、美術館の周りの建物を知ったりするための「地図」と捉え、なるべく細かい情報を盛り込みましたが、「植栽や細い道などは省略してもよいのではないか」「建物に入るための入口はあった方がよい」といった意見が出て、紛糾しました。さらに、この触地図は美術館周辺しか表現されていないことから、「もっと広範囲(の地図)にしてほしい」という意見もありました。本来の「地図」のようにすべての情報を盛り込んだ場合には「触地図」としては使いづらい、かつ限定的な範囲であると「地図」としての機能を果たしていないということが参加者の感想と意見から知ることができました。今後このツールの改良に関しては、もう少し使用目的を再検討してから進めていくことになりました。

次に、同じく木製のパネルでできた、館内の各階(地上1階から地下3階まで)の触地図にさわりました。こちらはシンプルに、各部屋の配置や形状、エスカレーター、階段の位置などがわかるもので、館内散策をする際に持ち運べるぐらい軽量であることから多くの好意的な意見が寄せられました。散策時に持ち運びやすいように、「どこかに穴をあけて紐を通せるようにしておけばいいんじゃないか」というアイディアも出ました。

3番目は、美術館の地上部分の立体模型と美術館全体の断面模型の2種類です。立体模型は、当館の外観の特徴である銀色のステンレスパイプで形作られたオブジェの部分がコンパクトに表現にされています。この模型をさわることで、見える人も、見えない人もその形状を確認することができます。断面模型は地上のオブジェの一部分に加えて、1階から地下3階までにわたる吹き抜け構造をさわって確認できるように作りました。断面模型をさわった参加者からは、「(階ごとの触地図は建物の構造については把握しづらいが、)断面模型では(各階のつながりがあって)一体の空間としてわかる」という感想がありました。見えない、見えにくい参加者の一人が、1階から地下3階までつながる吹き抜けについて、「(言葉によって説明を受けていたことが)なるほどと思った。(地上の窓から)どのようにして地下に自然光が入るのかが理解できた」と嬉しそうにお話しされているご様子が印象的でした。また別の見えない、見えにくい参加者は「(前回の館内ツアーで説明してもらった)ミロ(ジョアン・ミロ《無垢の笑い》1969年)の位置がわかって感動した」と話されました。一方、見える参加者からは、「言葉で表現しづらいところが(これがあると)説明しやすい」という感想が聞かれました。好意的な意見が多くあがりましたが、中には改良案として、「模型の中に手を入れてさわることを考えると、サイズをもう少し大きくしてはどうか」「ミロだけではなく、他の恒久設置作品も増やしてほしい」といった意見もあり、さらなるブラッシュアップを期待していることが伺えました。

最後に、地下1階の組み立て模型をさわりました。このツールは、部屋、エレベーターや柱、壁などを取り外すことができ、参加者がそれらを自分で組み立てながら建物を把握できるように作られています。見えない、見えにくい参加者からは「組み立てることで晴眼者(見える人)から教わるのではなく、自分で発見する楽しさや喜びを感じた」という感想がありました。また、見える参加者からは「壁の厚さ、部屋の大きさの違いがよくわかる。来館者がアクセスできる場所だけでなく、関係者しか入れないスペースも表現されているので、美術館全体の大きさがわかってよい」という意見が聞かれ、見えない、見えにくい人にとっても、見える人にとっても、新たな発見が多いツールのようでした。

この他にも、今回の検討会用には改良しなかったツールがあります。3Dプリンターで制作したプラスチックの立体模型で、3フロアが棒で接続されているので、地下1階から地下3階までの建物の構造がさわるとよくわかります。このツールを再度さわりたいという参加者からのご要望があり、再確認の意味でも、さわってみると、先にさわった断面模型や組み立て模型と比べて、サイズが小さめであることから、「手のひら全体で包み込める大きさなので、一番わかりやすい」という声もあがりました。また、さわる順番に関連させて、「断面模型をさわった後に、手のひら全体で包み込むようにさわることで建物全体を把握できていい」という感想も聞かれました。このツールの重要性が確認できたので、建物をトータルで捉えられるようにするためにも、現在表現されている部分に1階と外観のオブジェも加えて、完成していくことになりました。

今回、全種類のツールをさわってみて、参加者が多く口にしたのが、ツールをさわっていく順番についてでした。今回のように断面模型をさわって大まかな構造を把握した後に、組み立て模型で細部をさわることで、当館の建物が徐々に見えてくるようでした。さらには、各種ツールをさわり、館内を散策した後にツールをさわりながら散策時に捉えた建物のことを思い出すことによって、経験が深まり、自分がいる空間、立っている場所が実感と共にわかってくるのではないかという、将来的にこのツールを活用する際のプログラム内容に関わってくるような、踏み込んだ意見も聞かれました。

前回のプログラムでは、どのようなツールを作ったら良いかということを検討する比重が大きかったですが、今回の検討会では、美術館の建物を少しずつ把握していくためには、どの順番でツールをさわると良いのかを参加者同士で話し合う機会が多く、そのことにより、それぞれのツールの活かし方に話が及びました。その上での改善点といった、使用時のことを念頭に置いた、より具体的な案が展開されました。次は、完成したツールにさわることにより、ツールの今後について検討する予定です。

検討会当日は11月にもかかわらず真冬並みに寒く、雨も降る悪天候でしたが、ご参加いただいたみなさま、当館まで足を運んでいただき、貴重なご感想とご意見をありがとうございました。今回の検討会でいただいたアイディアを参考に更なる改良を進行中です。どうぞご期待ください。[F.A]

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