国立国際美術館

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ちっちゃなこどもびじゅつあー

ちっちゃなこどもびじゅつあー 〜絵本もいっしょに〜

2023年8月30日(水)

8月30日に「ちっちゃなこどもびじゅつあー 〜絵本もいっしょに〜」を開催しました。同日に3回プログラムを実施し、未就学の乳幼児とその保護者、計12組29名にご参加いただきました。アンケートでは「子どもが何を好きなのかなと表情を見たりして、一緒に楽しむことができた」「子どもの新しい一面がみれてよかった」等、プログラム中の子どもの様子を見て喜ぶ保護者のコメントをいただきました。そこで今回は、参加者のみなさんがどのようにプログラムを楽しんでいただいていたか、子どもの様子を中心に、順を追ってお伝えします。

受付を済ませた後は会場の講堂へ。プログラムの最初は、2冊の絵本よみから始まります。今回は『うちの ママって すてきなの』(アンソニー・ブラウン/作、久山太市/訳、評論社、2006年)と『ぼくの すきな おじさん』(長 新太/作、絵本塾出版、2020年)を読みました。『うちの ママって すてきなの』では、なんにでもなれちゃう、強くて優しいママのお話を聞き、にっこり笑顔でお母さんの顔を見ている子もいました。『ぼくの すきな おじさん』で、ある子は、登場人物が頭をぶつけると、頭をさすって「痛いな~」と話し、物語を楽しんでいました。子どもたちは「美術と絵本を考える会」メンバー(※)によるテンポのよいリズミカルな声に引き込まれ、「ガーン!」「ドーン!」と擬音語が出てくるたびに、笑い声をあげていました。

みんなで絵本を楽しんだ後は、これから見に行く作品の中から4点をスクリーンに映して子どもも大人も全員でおしゃべりします。保護者も一緒に、気づいたことや気になったこと、感じたこと等をお話しする時間です。発話が始まっている子は、絵の中で気になったことをどんどん話していました。奈良美智《長い長い長い夜》(1995年)に描かれた人物を見て「リンゴみたいだね」と言った子は、人物にさらに着目し、頬がほんの少し赤くなっていることを見つけて「お化粧してるみたい」と付け加えました。最初は恥ずかしがって答えなかった子も、他の子が発言する姿を見て、少しずつ気づいたことを言葉にしてくれ、マーク・マンダース《乾いた土の頭部》(2015-16年)が映ると、「人の顔をした化石みたい。灰色だから」と思ったことを理由も合わせてお話しするようになりました。

展示室では、参加者は「美術と絵本を考える会」メンバー、美術館スタッフと一緒にそれぞれのペースで鑑賞していきます。まだ発話のない月齢の赤ちゃんとどうやって作品鑑賞を楽しんだらいいのかと最初は戸惑う保護者もいらっしゃいますが、スタッフに促されながら、子どもの表情や体、目の動きに注目していくと、気になる作品の前では、嬉しそうに足をバタバタしたり、声を上げたり、逆にあまり好みではない作品の前ではそっぽを向くなどの反応している様子がわかり、「赤ちゃんでも作品によって反応が違うんですね」と驚かれることが多いです。今回も、ある保護者は、日常生活では、気に入らないことがあると声をあげたり、前抱きされると寝てしまう子が、展示室を回っているときは静かにじっと作品を見ていることに気づき、子どもが鑑賞にとても集中していることに関心していました。他にも、作品の前で「美術と絵本を考える会」メンバーが、お話が始まっている子に「何が見えるかな?」と話しかけると、見えているものを全部声に出して教えてくれたり、講堂で見た画像と比較して、「(実物には)もっと細かい線がある」と発見している子もいました。村上隆《727 FATMAN LITTLE BOY》(2017年)を前にした子は、画面中央下部に描かれたキャラクターが雲に乗って動いている部分を指差し、その周囲に色とりどりの色彩が用いられていることに気づいて「真ん中のキャラクターが街を動いて、(街を)カラフルにしている」と見えているところから自分が思ったことを繋ぎ合わせたストーリーをお話ししていました。

講堂へ戻ってくると、鑑賞時の参加者の様子を全員で共有します。子どもの様子だけでなく、保護者自身の感想も聞くことがあります。今回、娘さんと参加したお父さんは、「いつもは黄色が好きな子だと思っていたけれど、展示室では赤に着目することが多かったので、娘の新たな一面を発見できた」と喜んでいました。プログラムが終わる頃には、プログラム開始時の様子と比べて、変化がある子どももいます。最初に恥ずかしがってお話ししていなかった子が、展示室を一緒に回っていた「美術と絵本を考える会」メンバーからプログラム終了後に話しかけられると元気よく返事をしていました。その日初めて会った大人と会話をしている子どもの様子にお母さんも驚いていました。プログラム中、見つけたこと、感じたことをたくさんお話しする中で、相手に心を開き、オープンに接することができるようになったのかもしれません。短い時間とはいえ、家族以外の大人に自分の思いを徐々に伝える時間を設けている当プログラムだからこそ現れる子どもの変化とも言えます。

最後の絵本よみでは、「美術と絵本を考える会」メンバーによって読み上げられる『みずくみに』(飯野和好/絵と文、小峰書店、2014年)に登場する鳥の声や沢の水の音等を聴き、じっと集中して前を向いていました。

ご参加いただいたみなさん、ありがとうございました。今回のプログラムを機に、美術館での体験を今後も増やしていただければ嬉しいです。次回以降もみなさんのご参加をお待ちしています。[S.S]

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2023年8月30日(水) 1)10:30〜11:50 2)13:15〜14:35 3)15:00〜16:20
対象:0歳~未就学の乳幼児とその保護者
定員:各回5組10名
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