2月25日、26日にワークショップ「国立国際美術館ってどんな建物?歩いて話して、みんなで一緒に考えよう!」を開催しました。
初日は小学1年生〜6年生を対象に7名、2日目は中学生以上を対象に10名の方にご参加いただきました。昨今、美術館や博物館などでも建物に関するツアーやワークショップをよく目にしますが、本プログラムでは、講師に宮元三恵さん(アーティスト)をお迎えし、建物に関するレクチャー、建物ツアー、個人探検、意見共有など、積極的に参加者が交わりながら個人とグループという両方の観点から当館の建物を発見、再発見することができるよう、プログラム構成しました。今回のレポートでは、プログラムの流れを追いながら両日の参加者の様子を交えてお伝えします。
初日は、初対面の小学生がグループに分かれて活動するため、アイスブレイクとしてたっぷり他己紹介することから始めました。まるでインタヴューをしているかのようにペアになった参加者がどうしてこのワークショップに参加したのかという理由をお互いから聞き取りました。保護者の方に勧められてという動機も聞かれましたが、将来は建築家になりたいのでという参加者もいて、ワークショップへの期待が感じられました。2日目は、大人の方の参加だったので、初日よりは軽めに参加動機とともに簡単な自己紹介をしました。
続いて、講師の宮元さんによる建物についてのレクチャーでは、宮元さんが建築の道に進むきっかけとなった、アフリカの建物(家)の写真をもとに参加者と「Home」と「House」の違いを考えるところからスタートしました。「House」は、家という建物そのものを指し、「Home」には家という意味もあるけれど故郷という意味もあること、また、人が住むための建物であり、そこで過ごす人に応じて考えられている建物であることをレクチャーしていただきました。その上で、美術館とはどのような場所か問いかけ、さらには世界的にも珍しい地下型の美術館である当館の建物を図面で紹介し、あわせて当館を設計したシーザー・ペリが他に設計した建物も見せていただきました。
その後、当館スタッフによるナビゲートのもと建物ツアーへ。足元の床や身近にある壁、高い天井の照明など普段は気にしないような館内の様々な部分に着目しました。館外では、特徴的なステンレスでできたオブジェのような外観とそれと隣接する広場、あまり足を運ぶ機会のないピラミッド状の「山」と小さな竹藪から当館を眺めました。2日目の参加者の中には、「この場所に立ってはじめて設計者の意図を感じた」との発言もあり、シーザー・ペリの考えにも思いを巡らせながら美術館を内外から鑑賞しました。
ツアーによる観察の後、ワークショップ会場を館内の様子が臨める地下1階の情報コーナー前のスペースに移し、フロアごとに分かれた大きな美術館の図面にツアーで気になったこと、気づいたことなどを記入した付箋を貼り付けていきました。初日の子どもたちは、場所によって材質の異なる館内の壁に注目したり、地下2階から地上へ進むにつれて明るくなる地下型の美術館ならではの光の様子が気になっているようでした。
次に、初日の子どもたちは講師の宮元さんから「気になったけど行かなかった場所」に行くこと、「地上から地下1階へ降りるエスカレーターからどのように見えるのか」、「地下1階から地下2階はどのように見えるのか」、「外から建物を見てどのように見えるのか、内と外の違い」を考えること、最後に美術館にオノマトペをつけるとしたらというミッションを受けて探検に出発しました。プログラムの最後にグループごとの発表を控えているため気づきを共有しやすいよう、グループごとにタブレットを持ち、写真でも記録しました。建物ツアーの際に乗らなかった地上から地下1階へのエレベーターが気になったという子どもたちは、早速エレベーターに乗ると「エレベーターがスケスケ(ガラスで)で地上では明るかったのに地下に降りたら急に暗くなって、地下だということを一番感じた」と光の違いに、一方で別の子は「エレベーターの扉が閉まった瞬間にキーンと静かになって、扉が開くとざわざわした」と音の違いに注目していました。2日目の参加者たちは一人ずつタブレットを持ち、それぞれ気になるポイントに絞って記録撮影を行いながら、美術館を探検しました。
最後は講堂での発表・共有の時間です。初日の子どもたちはグループごとに撮影した写真をスクリーンに投影しながら、それぞれの場所で気になった点、気づいたことを発表しました。「地上は、外観のパイプのオブジェに光が反射してキラキラ、地下1階ロビーも床がキラキラした感じだが、地下2階は塞がったような感じがした」、「地上では人の話し声が聞こえないのに、地下1階ではざわざわしていた」と、光や音といった感覚に基づくものが多く、美術館という建物自体を様々な感覚で観察したことがよくわかりました。
2日目の参加者の発表は、個々の気になるポイントに基づいた探検ということで発表の内容も非常にバラエティに富んでいました。地下1階ロビーに恒久展示されているジョアン・ミロ《無垢の笑い》(1969年)に注目した参加者は「外光の入り方で色が違ってみえることに気づいた。ミロの壁画が展示されているから日の当たり方の違いが気になったのか、何もない壁の方が一日の外光の変化に気づきやすいのか気になった」と話し、それに対し講師の宮元さんは「作品を見ようと思うと光の変化は邪魔になるかもしれないが、光を中心に考えるとミロの作品も含めて空間の捉え方が変わるので面白い」と応答されていました。また、別の参加者は「外観のステンレスパイプによるオブジェの曲線も含めて、館内でも直線と曲線が入り混じっていて無秩序な感じがしたがそこから建物のストーリを感じることができ、あらためてかっこいい建物だと感じた」と館内のライティングレールや湾曲した壁に注目していました。また、別の参加者は「どこへ行っても、行けるところまで行って、じっとしてみると見えていないことが見えてくる。美術館の近くで働いていても、気づいていないことが多かった。美術館を外からあらためて見て、この辺りのビル群の中で、最後の青空を確保しているように思えた」とプログラムに参加した感想を話してくれました。一人一人の発表に対し、講師の宮元さんが丁寧に応答してくださりとても充実した共有の時間となりました。
建物に関するワークショップというと、構造や歴史について触れるものが多い中で今回の参加者は自らの感覚をもって普段気にすることのない部分にまで着目し、まるで作品と対峙した時のように建物を鑑賞していました。これらの多様な感覚によって得られた建物に関する発見・再発見を今後何かの形で展開できればと思えるほど、気づきの多いワークショップでした。
ご参加いただいたみなさん、講師の宮元さん、長時間にわたりありがとうございました。また、美術館にお越しいただく際には作品だけでなく美術館の建物そのものも楽しんでいただければ嬉しいです。[K.Y]
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2023年2月25日(土)
13:00〜16:30 対象:小学1年生〜6年生 定員:10名
2023年2月26日(日)
13:00〜16:30 対象:中学生以上どなたでも 定員:10名
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