国立国際美術館

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出張授業

大阪府立大阪北視覚支援学校中等部

2023年2月27日(月)

2月27日に大阪府立大阪北視覚支援学校へ伺い、中等部1~3年生10名に美術の特別授業を行いました。

ご担当の先生は、今回の教材が生まれるきっかけとなったワークショップ(※)の参加者で、その後、なんらかのケアを必要とする方による積極的な美術館活動への参加をサポートするツールの開発にもご協力くださいました。すでに今回使用する教材である当館所蔵のアルベルト・ジャコメッティ《ヤナイハラⅠ》(1960-61年)のレプリカを知り尽くしている先生と事前に入念な打合せを行い、そのレプリカを通して、美術作品の存在を知り、面白さに気づき、楽しみ、触感・形などから感じたこと考えたことを共有し、作品の見方や感じ方を広げることを目標に授業を実施しました。
本レポートでは、授業の流れとともに生徒たちの様子を交えながら当日の様子を紹介します。

今回は、美術館から2体のレプリカを持参し、みえない、みえにくい生徒5名ずつを2つのグループに分け、途中休憩をはさみながら約1時間50分の授業を行いました。生徒のみなさんは、授業を楽しみにされていたようで、積極的に話しかけてくれる生徒が多く、和気あいあいとした雰囲気で授業はスタートしました。はじめに簡単な自己紹介とともに知っている美術作品(思い付かない人は好きな食べ物)を発表し、いよいよアルベルト・ジャコメッティ《ヤナイハラⅠ》のレプリカに触っていきます。

先生からの、最初はとにかく人の像であるということがわからないようにしたいというご希望により、授業冒頭では、頭部にエアパッキンとタオルをかぶせた状態で一人1分ずつ胸像の胸あたりの部分をしっかり触り、次にグループ全員で、机の真ん中に置いたレプリカに手を伸ばしながら触りました。個人で触っている時は「ごつごつしている」、「でこぼこしている」といった触感をそのまま話したり、正面から触り「犬のような形」、横から触り「思ったより薄い、持ち上げたら自分のカバンより軽いかも」と身の回りの知っているものと比べる発言が多く聞かれました。グループで触ったときには、個人で最初に触った時の感想からどんどん話が広がっていきました。想像した作品の重さから、作品の材質の話に及び「木ではないみたい、木と石の間な感じ」という話が出たかと思うと「でこぼこ、ごつごつしているから木や石かもしれないが、指がピタッとはまる場所があって、粘土のように自由自在に形づくれるものでできているのではないか」と、触れることによって得たお互いの考えを共有し、作品に迫る姿が見られました。こうしたそれぞれのグループの発言を先生がホワイトボードに記録し、意見交流時には、読み上げながら2つのグループの意見を交流させました。

いよいよ、胸像の頭部を隠していたエアパッキンとタオルを取り外し、再度一人ずつ作品全体を触っていきます。胸像の下部だけを触っている時は、触った感触を話すことが多かったのに比べ、頭部が露わになったことにより、モチーフについて話が広がります。あっさりと、「なんだ、人なのか」といった反応はなく、「(ゲームや映画に登場する)青鬼みたいな顔」、「頭と体があって、体の部分がデコボコしているのは、鎧を着ているからではないか」、「がっちりしていて体格がよいから男性ではないか」、「髪が短いから男性だと思う」等、全体を触ったからこそ言える色々な感想を口々に伝えていました。

後半の授業は、グループ全員で作品全体を触るところからスタートしました。個人で触っていた時の感想を共有しながら、話は展開していきます。身に着けている鎧は日本のものか、外国のものかという話題になり、その形から日本のものではないからヨーロッパのものではないかとグループのみなさんで考え、さらには「鎧を着ているということは昔の人、きっと500年ぐらい前の男の人!」と楽しそうに想像していました。また、ある生徒が作品の背中部分にある、他よりも盛り上がっている部分に気づき、「やる気スイッチがある!」と言うと、今度はみんなで触りながら「このスイッチ押したら動くかも」と想像し、もし動くとしたら「ずっとまわっていそう!」とたくさん想像を膨らませながら作品鑑賞を楽しんでいました。

全員での共有の時間では、教室のホワイトボードが埋め尽くされるほどのたくさんの感想や意見が飛び出しました。2つのグループは、同じ作品のレプリカを触っていましたが、注目するポイントもそこから感じたことも、グループで話し合ったことも全く異なっていました。その違いに生徒自身も先生も驚きながら、感じたことや考えたことを共有しながらの作品鑑賞の楽しさを実感していました。後日、「想像を膨らまして話し合うのが楽しかった」という生徒からの感想が届きました。

大阪府立大阪北視覚支援学校中等部1~3年生のみなさん、授業を楽しんでくださってありがとうございました。いつか、美術館にも遊びにきてください。 [K.Y]

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