会期:2002年9月19日~10月17日
当館において浜口陽三の展覧会を開催するのは2度目である。前回1985年は、現存する最初の版画から当時の最新作までの作品によって、浜口の版画世界の全貌を国内においてはじめて紹介した展覧会だった。今回の展覧会は、2000年12月の浜口の没後以降、初めての本格的な回顧展であると同時に、作家が手元に残していた、試し刷り、下描き、アイディアスケッチなど、これまでほとんど公開されることなかった資料も展覧した。
浜口陽三の名を世界的に知らしめさせたのは、カラーメゾチント技法によって生み出された、漆黒の画表面の中に鮮やかな色彩によって表わした小さな果物や小動物を配置した幻想的な版画作品群である。これまでも多くの展覧会や画集の中で、浜口のカラーメゾチントの独自性やその芸術性の高さについては指摘されてきたが、同時に、それらの作品が生み出された背景に対する掴み難さも多く言われ続けてきた。東京美術学校を中退し、1931年から10年に及ぶフランス留学、第二次大戦を挟んで50年頃から版画制作を開始し、再度53年暮れにフランスへ渡り、画商ベルグリューンと出会うことによって、ようやく版画家としての道を歩み始めた。その後の展開は順調で、55年にはカラーメゾチント技法による作品を生み出し、57年には第1回東京国際版画ビエンナーレ展で国内大賞である国立近代美術館賞を受賞した。
その受賞理由として富永惣一が指摘した「西洋的な技術の上にありながらも芸術の質は東洋的であること」「恰も宋元の静物画のような静かな観照と密度の深い愛情があり、或いは宋磁器のような精緻な感性がこもっている」といった評価がそれ以降定着し、浜口芸術の精神を「東洋的美意識」に求めるようになっていった。今回は、そのような定説化されていった浜口陽三の芸術世界を、多くの資料によって再度検証を促すような実証的な側面を持った展覧会としても構成された。