会期:1999年5月27日~7月11日
国立国際美術館では現代美術を中心に日本と海外の美術の動向を紹介する様々な展覧会活動を行なってきたが、そのなかで国際交流展というシリーズ展を開催している。このシリーズは或る特定の国を設定し、その国において日本の作家の作品を展示するとともに、その国の作家の作品を当館で展示するという、海外の美術館と当館の間で個展の交換を行なう企画である。 今回の国際交流展の対象国はオーストラリアだった。同国とはすでに1997年の秋にメルボルンのモナッシュ大学ギャラリーにおいて日本画家の日高理恵子の個展を共同開催した。ローズマリー・ラング展はその交換展に相当するものである。
ローズマリー・ラング(1959−)は、昨今現代美術において多くの人が用いているサイズの大きな写真をおもな表現手段とするシドニー在住のアーティストである。ラングの関心は、様々な科学技術を基盤としている現代を生きる私たちの知覚、なかでも時間や空間に対する感覚に向けられている。
20世紀は前世紀にも増して、人間の身体能力を拡張するさまざまなテクノロジーを生み出してきた。そのなかで人や物質の移動を高速化し、情報を即時に伝達するテクノロジーは代表的なものである。今日の人々はそうした発明により、昔の人とは大きく異なる時間感覚をもったり、空間認識をするようになった。現代人は二地点間の高速移動それ自体に集中するため、移動時間は奪われ、移動間のあらゆる物事が曖昧にしか捉えられなくなり、歪んだ時間と実質のない空間を受け入れざるを得なくなっている。
ラングはそうした今日的な現象に注目し、それを主たるテーマとして美術活動を続けている。その意味でラングの作品は、現代の人々が背負わされている今日的な時間や空間というものを視覚的に表現していると言える。
ラングはここ10年あまり、数年ごとに新しいシリーズを発表している。この国際交流展では、1992年以降の3つのシリーズ−−森林の写真をコンピュータを使って加工した写真《グリーン・ワーク》シリーズ、ジェット機の内部や空港施設などをモチーフにした写真《ブラウン・ワーク》シリーズ、スタントマンの危機迫る状況を空中撮影した写真《スピン》シリーズ−−からの代表作のほか、この展覧会のための新作にして、ラングにとって初めての映像と音声によるインスタレーションで、オペラ的な演出がなされた《スピン》も出品された。