黒田アキ 廻廊=メタモルフォーゼ

会期:1994年4月7日~5月17日

現代、21世紀を目前にしたこの時代はさまざまなかたちで揺らいでいる。古い価値の体系は失われつつあり、だからといってそれに代わる新しい体系がかならずやってくるという保証もない。世界はそこかしこで歪(ひず)みを見せ、ぼんやりとした崩壊の予感におびえている。
こうした現実をおもえば、1944年に京都に生まれ、20代半ばにパリに定住し、異質な環境のなかでもがくように制作してきた黒田アキの作品世界に揺らぎや、不意の転回があり、ときにはそこに突風が吹いているとしても少しもふしぎではないだろう。それは異国にいて不安定でありつづける彼自身の存在の叫びであり、同時にまた今日の高度に発達した社会にあって、たえず危機にさらされている人間たちに向けられた、画家自身の鋭敏で繊細な感性の証しともいえる。黒田アキはいっている。「絵とはそれぞれが出来事であり、危機である」と。かつての堅固な壁としての絵画のヴィジョンは遠くに去り、いまや絵画はそれ自身ひとつの混沌(カオス)となりつつある。そこではもはやなんの制限も境界もなく、無限にのびる明るい廻廊さながらに、表現にかんするすべて、イメ−ジも素材もある緊張をはらみつつ晴れやかに変容(メタモルフォーゼ)をくり返す。だからこそ、薄暗い絶望や虚無とはまったく無縁に、黒田アキの世界にはつねに光が、輝かしい絵画の予感があるのかもしれない。
廻廊=メタモルフォーゼ。この展覧会は展示空間をまさに廻廊と見立て、今日における絵画のもっとも本質的な部分で意欲的な作品を発表しつづける黒田アキの華麗なる変容の現場を呈示することを目的とし、最新作を含む近作、絵画34点、素描約70点、立体作品6点によって構成された。そこに展開された宇宙の始原にまつわる画家自身の自在かつ、しなやかな感性はまったく独得のものであり、見るものに深い印象を残した。

  • 入場者:総数4,166人(1日平均113人)
  • 主催:国立国際美術館/東京国立近代美術館
  • 協力:日本航空
  • カタログ:「黒田アキ 廻廊=メタモルフォーゼ」
    28.0×21.4cm/120ページ/カラー36点、白黒2点
    黒田アキ=メタモルフォーゼ(本江邦夫)/ダイダロス−黒い月の光(パスカル・キニャール、訳:本江邦夫)/黒田アキの時=空(ジャン=ピエ−ル・ビブリング、訳:本江邦夫)/出品目録/展覧会出品歴/参考文献/出品作品リスト
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