会期:1992年6月20日~8月9日
国立国際美術館と大阪ドイツ文化センターは、1990年に『ヨーゼフ・ボイスの世界−ドローイング、オブジェ、版画』を開催した。ボイスほど、作品のみならず、その思想や実践的な活動で人を惹きつけ、社会に発言していった芸術家は他にいない。今回は、このボイスの精神を最も直接に引きついでいるヨルク・インメンドルフ(1945−)の絵画を、日本で最初の大きな規模で紹介した。
マルクスやレーニンあるいは毛沢東などの思想家たち、フランシス・ピカビア、マルセル・デュシャン、ジョルジオ・デ・キリコなど芸術上の先達、そしてボイスは当然、さらに同世代の友人A・R・ペンクやゲオルク・バゼリッツたち、それにハーケンクロイツ、赤い星、ハンマーと鎌などの政治的象徴等々を劇場、カフェ、美術館に集合させた臨場感あふれる絵画をインメンドルフは制作している。ドイツの現実に終始こだわり、芸術と政治や社会との有り様を鋭く問い直してきた彼は、一つ一つの作品で、例えば社会主義リアリズムの偽善性、あるいは社会主義と資本主義の両方に淫している人々の陰湿さなどを炙り出している。彼の作品は、現代にあまり類例を見ない優れた寓意画ともいえるであろう。
本展では、1983年の「カフェ・ドイチュラント」から1990年の「カフェ・ド・フロール」まで、8年間の作品から45点を展示した。政治や社会から美術まで、ドイツの現実を論じつくすインメンドルフの世界を鑑賞してもらったのは、東西ドイツの統一が実現して2年を経ようとしていた時期、改めて興味深いことであった。