パキスタン・ガンダーラ美術展

会期:1984年5月12日~6月17日

ガンダーラは、現在のパキスタン北部に位置するペシャワルを中心とした地方の古い地名で、美術史的には隣接するタキシラやスワートをふくめて東西100 キロメートル、南北80キロメートルに及ぶ地域をさす。この地方は、ヨーロッパや西アジア、中央アジア、中国からインドへ入るシルクロードのなかでも特に重要な地点で、B.C.4世紀のアレキサンダー大王の東征以来、多くの王朝が興亡をくりかえしているが、ガンダーラがとりわけ栄えたのは2~5世紀にかけて当地を支配したクシャーン王朝の時代で、この折り興隆したのが、いわゆるガンダーラ美術である。
ガンダーラ美術は、東西文化の交流によって生まれた西欧的な要素の濃い美術で、インド亜大陸において初めて仏像を現世にもたらしてこれを定型化し、仏像中心の美術を展開した点が特筆される。本来、インド・アーリアン民族のあいだでは、涅槃そのものを形のないものとして考え、仏像不表現の態度が守られていた。これに対し、人体を彫刻的に造形化する伝統のもとに育ったギリシア系民族は、不満をいだき、彼らは、最初さりげなく群像の中に仏陀を刻み、次いで仏伝の主人公として典型的に表わすようになり、最終的に仏陀を単独像として表現するという永年にわたる手順をふんで、インド・アーリアン民族のタブーを、ガンダーラの地にあって、打ち崩していったと考えられる。このガンダーラ美術の特色は、やがて広くインド、中央アジア、中国、日本などの仏像表現に大きな影響を及ぼすことになる。
本展では、パキスタン国内のカラチ国立博物館、タキシラ考古博物館、スワート考古博物館、ラホール博物館、ペシャワル博物館、ディール博物館から、パキスタン文化省が選定した作品140点が紹介された。内訳は、ギリシャ・ローマ文化の影響をそのまま表現した酒宴のシーンや建築装飾のレリーフ15点、仏陀の生涯を刻した仏伝レリーフ等仏教的な彫刻21点、同国が世界に誇る名宝「釈迦苦行像」をはじめ仏教寺院遺跡から出土した典型的なガンダーラ仏22点、さらには都市遺跡から出土した諸民族交流のあとを立証するコイン25点、化粧皿9点、神像9点、装身具17点、生活用具等22点で、ガンダーラ美術における仏像出現の発生過程や同美術を育てたクシャーン民族の生活などを知るのに十分な内容となっていた。
なお本展は、NHK教育テレビジョン放送開始25周年を記念して企画され、当館に先だって東京の西武美術館にて開催され、当館閉幕後に福岡市美術館へ巡回した。

  • 入場者:総数131,328人(1日平均4,104人)
  • 主催:国立国際美術館
  • 共催:福岡市美術館/国際交流基金/日本放送協会
  • 協力:西武美術館
  • カタログ:「パキスタン・ガンダーラ美術展」
    25.5×21.5cm/246ページ/カラー107ページ/白黒46ページ
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