会期:1979年5月19日~6月24日
1966年から77年にかけて、12回にわたって組織された「ジャパン・アート・フェスティバル」は、日本の現代美術を海外に紹介する展覧会のひとつとして、JAF展の名称で国際的にも広く親しまれ、大いに実績があった。このたび、その趣意を受け継ぎ、新たな構想、企画のもとに発足した展覧会が、この「ジャパン・アート・フェスティバル'79」展である。旧来通り、作品の選定には一般公募によるコンクール形式をとり、入選作品によって構成される展覧会を必ず海外で公開するという原則は変っていないが、3年ごとに一回開催されるというトリエンナーレ制をとることになった。
第1回展の今回は、この展覧会の推進者で審査員の一人でもある美術評論家中原佑介の発案で、「壁面で展示される作品」を条件に一般公募され、これに対して368作家、816点の応募があったが、中原の他に、ポーランドのウッジ美術館長R.スタニスワフスキー、当館館長本間正義の三人が審査にあたり、30作家、58点の入選作品が選定され、大賞1名、優秀賞3名、国立国際美術館賞1名が決定された。
この展覧会の主旨に基づいて、これらの入選作品は、3月20日から4月22日まで、ポーランドのウッジ美術館において、日本国内での公開に先がけて展覧された。東欧圏において、日本の現代美術がこのようなまとまったかたちで公開されるのは、ユーゴスラヴィアのリュブリアナでのJAF展に次いで二度目のことであり、日頃交流の少ない東欧で開催されたことは意義深い試みであったといえるだろう。
内容的には、ポーランド展でのタイトルが"AKUTUALNE TENDENCJE SZTUKI JAPOÑSKIEJ(日本美術の今日の動向)"と題されていたように、日本の現代美術の今日的情況を反映する構成となった。もっとも、入選作家の大半が20代、30代の若手作家によって占められていることからもわかるように、今日の若い世代のスタイルを代表する作品が多かったということになろうか。共通してみられる最も顕著な傾向のひとつとして、大賞を受賞した松本旻の《配色(32色の順列)》、優秀賞の川井昭夫《麻布タイプA-3》などにみられるような、画面全体を細かい点や線といった記号的な要素でびっしりと規則的に埋めつくした作品が多かったことがあげられよう。また、国立国際美術館賞を受賞した谷口茂の《RORTRAIT-T》にみられるような、何らかの形で写真を応用した作品が相変らず多かったのも今回の特徴であった。少数ではあったが、樹葉を油彩で克明にスーパーリアリズム的に描いた鈴木睦子の《植物Ⅰ》や、ある日の新聞紙面をそっくりそのまま鉛筆で精細に模写した吉村芳生の《ドロイーング新聞》などの作品が、かえって新鮮にみえた。
極度に繊細で均質的な画面作りやほとんどモノクロームに近い色彩的雰囲気といった全体的な傾向は、70年代の初めから日本でも盛んに試みられるようになったものである。画面一面をドローイング風に描き込んでいく、手作り的ともいえる現代美術の最近のあり方が、ここにも強くあらわれているように思われた。
受賞作家と作品は次のとおり。
大賞 松本旻《配色(32色の順列)》
優秀賞 川井昭夫《麻布タイプA-3》
優秀賞 黒川博《線=出合い(Encounter for the line)》
優秀賞 藤井一《作品へ》
国立国際美術館賞 谷口茂《RORTRAIT-T》