アクティヴィティ・パレット

「作家」を作ってみませんか?

提案者:高木香織

私はある作家の作品を見て人生を決めた。
というか自身が持ち合わせている性質を再認識することができた。
それほどその作品の前で釘付けになったことを鮮明に覚えている。
なんの説明もされず、ただその作品の前に立ったに過ぎないのに
次々に自身が自身への質問を繰り返し、それに答えることで自分の本質に向き合えた。
その時の気持ちよさ、心地よさは他の何かで味わうことのない質感であった。

ただ、あの時にあの作品を受け入れることのできる私自身の器を持ち合わせていなかったなら
おそらく世界は何も変わっていなかったのではないだろうか。
ここで私が言う「器」とは、外から受けたなにがしかをキャッチ、察知し、
自身の身となり糧となるものに変化る(へんげる)ことのできる「人間の内に存在する入れ物」のことである。

作家の作品はそれを見る者に、何かを提示し、与え、考えさせ、そして見る者を動かしてしまう力がある。
が、しかしこの作品を作っている作家もまた日々何かに提示され、与えられ、考えさせられ、動かされているのが現実だ。

私のここ数年の制作とは「他者によって自身は作られている」という概念の元
他者から受けるあらゆる作用により、私自身とは外も内もみるみると変容していくのだと認識している。
まるで私の中から生まれ出てきたようなそのアイデア、思考、思想、感覚、感情、技術でさえも
私を取り巻く他者によって作り上げられたことは確かである。

作品「内在する器 ー私の器着てみれます。ー」1 作品「内在する器 ー私の器着てみれます。ー」2
作品《内在する器 ー私の器着てみれます。ー》(現在進行中の作品は写真の10倍の大きさになる予定)

これは私という自身をあまりにも知らずに日々「私という人間をやっている」ことや、
私自身をほとほと理解しきれず暮しているが、その見えぬ内なる部分には何が潜んでいるのかを
一度引きずり出して具現化してみようと試みている作品だ。

素材は水引一本から編み出していき、繋ぎ合わせてくことで何かしらを受け入れる容器のようなものが見えてくる。
こんなものを自身の体内に常に抱えているのだと客観視し
更にこの「内在する器」を他者に身につけてもらうことでより一層自分自身の俯瞰を希望している。

先にも述べた通り、自身は他者で形成されているというコンセプトの元
この作品も多くの他者の手が加わっている。
この立体は3〜4本の水引でまず小さなパーツを作りそれを繋ぎ合わせていくことで増殖していく。
既にこのパーツを5歳の子供から大人まで色々な人が色々な場所で作り、この大きな作品の一部分を担っている。
日々私という人間の形成に関わって来る人々に、私の作品の形成にも実際に関わってもらうプロジェクトである。

作家ばかりが他者に影響を与えているのではない。
観客もまた誰かしらに影響を与えて生きているのだ。
それを実感するには充分な時間を今回私たちは与えてもらえた。
この新たな環境によって。

あなたの家で、あなたの手で、《内在する器》をいっしょに作ってみませんか?

編み方のコツ

まず最初に。
この動画の通りにならなくて大丈夫です。
網のような、コースターのようなものになれば良いです。
サイズも大きくなっても構いません。形も変形しても全く問題ないです。
隙間がなるべく均等だとありがたいですが、それも気にしないでください。
コツは一切くくり留めはしないことと水引を編み物のように互い違いに差し込んでいくことです。
最初の輪っか作りは必須ですがそこからはバランスさえ取れていればルールはありません。
水引を引くときに引っ張りすぎず、あと折ってしまわないことがポイントです。
水引には塗料に糊が含まれているので、その粘りで止まります。

参加方法

メールにて、件名を「作家を作ってみませんか?」として、本文に
①お名前・ご年齢 ※参加希望される全員の方のお名前とご年齢をご記入ください。
②ご住所 ※郵便番号からご記入ください。
③メールアドレス
④お電話番号
をご記⼊いただき、メールアドレス(activitypalette★nmao.go.jp) 宛てにお送りください。
※メールは★を@マークに変えて送ってください。

お申し込みくださった方には、後日、ご指定のご住所に人数分のセットをお送りします。
その後、完成したものを直接高木さんにお送りいただくことになります。

お問い合わせ先

国立国際美術館
Tel:06-6447-4680(平日10時~17時)
Email: activitypalette★nmao.go.jp ※メールは★を@マークに変えて送ってください。

高木香織

高木香織(作家)

粘土を一生ともにする素材として、立体や器を制作。
器とは「受け」「与え」そして「変化させる」ために重要な道具であるという捉え方に軸を置くことで、人自身もその条件を満たす器であり、世の中には器になり得るものが物質に限らず無数に存在することを表現。
近年は、参加者がTAKAGI KAORUの作品を道具として使い、「新たな制作を作家と共に行う時間」というパフォーマンスを主体に活動。「時間」をつくり、「時間」を売る作家である。
http://www.takagikaoru.com
(2021/3/5 時点)

今回のアクティヴィティを提案したおもい

この案はこの環境になる前から既に私の日常に関係する人達に参加を求めて制作が進んでいました。今私が面白がっていることは、物事の見方の位置を自身で変えてみることです。今までは私のコンセプトを話して、みなさんへ「参加してもらえますか?」とお願いすることが常でした。ですが、全く同じ内容でも今回は参加者のみなさんが私という作家の一部を「作ってみよう!」という思いの集まりでこの作品が成り立っていく様を一緒に感じることになります。参加くださるみなさんが自身の制作した1ピース作品があってこそこの作品が完成するのだと実感していただくのには十分な時間が今ならあります。これは作り手である私にとってもチャンスです。出会うことがなかったであろう、みなさんと離れているとはいえ、共に制作できることになったからです。いつどんな時にも私の作品は増殖していけます。それをみなさんと共に感じていけるアクティヴィティ案だと思うのです。

今実践していること

これも今というよりは既に2年は経っていると思うのですが、私が実践していることは「のびのびいきる」です。文字で書くと簡単そうに見えますが、のびのびとは具体的にどういう状況を指すのか考えなければなりません。まだ2年しか経っていないので、私の実験結果としては浅いのですが。1つ私が今確実にそのモードに切り替えつつあるのは「先のことは決めない」です。

私は大人のワークショップクラスと子供とのワークショップのクラスを持っているのですが、この二つには決定的な違いがあります。大人クラスでは往々にして、何処かで見知った何かに近づける為に目の前の素材をどう扱えば良いのかを問います。子供クラスでは今目の前にある素材に感激してそのことに夢中なる為先のことが決定できません。子供たちは拙さ故に先を見据えられないのですが、確実にこちらの方が笑顔です。今、目の前の面白さをできるだけ多く拾って、そのことに感嘆し、笑えること。いや、笑ってみること。これがこの先に何を生むのかはもう少し私の実験を重ねて、いつかご報告いたします。

今大切にしていること

他者の声です。私はラッキーなことに毎日色々な人の声を聞ける立場にあります。0歳から80歳くらいまで。時には90歳も。性別、国も問わず。なので、私は多くの擬似体験をすることができます。少し先の年齢の私を想像したり、はるか昔の幼い頃の気持ちになれたり。1日の中で大きな時間幅を行ったり来たりするのです。その時に、私が常々描いてる絵が色数を増し、質感を変え、厚みを増します。やはり、私の作品コンセプトにもあるように、多くの人によって自身は形成されていることがここでも証明されています。