国立国際美術館

hrさん

〈リスニングした場所〉
風の通る自室

〈リスニングした日時〉
午後3時

〈背景などのコメント〉
夏が好きなので、一番空気の透き通る午前5時か緩やかな昼過ぎか艶っぽい夕方にしようかと悩んだが、時間があるいていた午後3時にした。

ex.3

暗いトンネルの中に居た。待ち合わせの時間に遅れると、早足で出口に向かっていた。荒れた地面に靴音が響いた。向かっている方向が出口ではないことに、その時は気づかなかった。
 「タッタッタッ」の足音以外は何も聞こえない所を駆けていた。その音が自分の足が地面に当たるタイミングとズレている事にまだ気付いていなかった。
 どれだけ走っても出口には着かなかった。1時間は走ったと思うが、息が上がっていないのはこのトンネルか緩やかな下り坂だったからだと気付いたのはもう少し後になってからだった。
 全力で足を回転させて空気の薄い湿った床をける。耳にどこからか靴音とは違う低い「ゴー」という音が入った。一定間隔で止まっては、また鳴り始めるその音は機械的で、しかし何故だか冷たいとは感じなかった。
 遂に足を滑らせて、もはや止まらない。油を塗った滑り台が永遠に続くような底知れない不安に目を瞑っても、暗いトンネルでは開けているのと大差なかった。落ちる最中、ミミズや貝のようなヌメヌメとした何かを触った。

 「陽太郎ったら、いったいどこまで遊びに行ってしまったのかしら。」
 「山のトンネルじゃなきゃいいがね。心配だな。巡査さんはまだ来ないのかい?母さん、何も知らないんだよね。」
 「知らないねぇ。どこまで行っちゃったんだろうねぇ。山、もう一度探して………。」

タイトル うなぎの腹

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