アクティヴィティ・パレット

声の質問

提案者:アサダワタル

はじめに

自粛生活が続く中、家でじっくりと読書をする時間が増えました。本棚を眺め、久しぶりに手に取ったなかに『質問』という本がありました。この本は、寺山修司さんの秘書だった作曲家の田中未知さんが書いた本で、365個の日本語と英語の質問が用意されています。

「地球が生まれたとき一番最初に生まれた音はなんだったと思いますか。」(25頁)

「迷路に入り口と出口があるのはなぜでしょうか。」(102頁)

「“自由からの自由”も必要でしょうか。」(333頁)

このような質問を読み返しながら、思考がふっと遠くへと羽ばたく感覚になりました。そしてこの感覚を誰かと共有したい、質問を投げかけてみたいと思いました。最初は、『質問』から引用してみましたが、徐々に、一から「質問」をつくってみることにしました。

と同時にこれらの質問を「声で伝えたい」と直感的に思いました。テキストではなく、スマホのボイスメッセージで相手の名前を呼びかけ、それぞれに答えを聞いてみたい質問を送りました。すると、同じく友人たちも「声」で返答してくれました。答えの内容はもちろんのこと、息遣いや間、背景に流れる生活音も含めた「表情」がありありと伝わり、長らく会えていない彼ら彼女らととても「近く」なれた気がしました。

以下、実際に行われた音声の一部です。

■声の質問:ねむちゃんの場合

「声にも色はあるんでしょうか」

■声の質問:安川くんの場合

「道を尋ねる相手の基準はなんですか」

■声の質問:小池さんの場合

「もう一つ季節をつくれるなら、それは何という名の季節ですか」

手順

・身近な友人・知人を思い浮かべてその人宛に「質問」を書く
・ご自宅のベランダや窓辺で2回質問を読み上げ録音
・同じく声で「回答」を送ってもらうようにお願いし録音を終える
・音声データを相手に送信
・便りを待つ

準備物

・作成した質問
・レコーダー(スマホ、ICレコーダーなどなんでも)

参考文献

田中未知『質問』(文藝春秋、2018年)

さいごに

時に質問から考え、時に送りたい相手から考え、それぞれに「声」を届け、また「声」を受け取る。「最初は何のことかわからなかったが、恥ずかしいながら嬉しかった」「自宅で鬱々としていたけど、気持ちが軽くなった」。そのような感想もいただき、こちらも心にも窓が開いてゆく実感を得ました。

この「声の質問」という遣り取りでは、身の回りの日常から逃れられないときに、ちょっとした想像力で「遠く」に出て、その遣り取りから「近く」に共に在る状況を生み出すものです。このアクティヴィティ・パレットにおいても、この営みの共犯者をゆるやかに集いたいと思います。

アサダワタル

アサダワタル(文化活動家)

1979年大阪生まれ。これまでにない不思議なやり方で他者ならびに自己と美的に関わることを「アート」と捉え活動。音楽や言葉を手立てに、全国の市街地、福祉施設、学校、復興団地などでプロジェクトを展開。
2009年、自宅を他者にゆるやかに開くムーブメント「住み開き」を提唱し話題に。2010年以後、文化的なアプローチからコミュニティの理想のかたちを提案する著作、新聞・ウェブ連載などを多数発表している。アーティスト、文筆家、品川区立障害児者総合支援施設ぐるっぽコミュニティアートディレクター(愛成会所属)、東京大学大学院、京都精華大学非常勤講師、博士(学術)。近著に『想起の音楽』(水曜社、2018年)、『ホカツと家族』(平凡社、2019年)、『住み開き増補版 』(ちくま文庫、2020年)など。ドラマーとして在籍していたサウンドプロジェクト「SjQ++」では、アルス・エレクトロニカ2013サウンドアート部門準グランプリ受賞。
https://www.kotoami.org
(2021/2/10 時点)

今回のアクティヴィティを提案したおもい

コロナ禍で声を失うこと、多くなったでしょう。ましてや歌なんか。声は空気の振動。生きていることを実感するため、自分のために、大切な誰かのために声を発したいと思ったのです。

今実践していること

ちょっと最近、くさくさしてたので、読書ですかね。

今大切にしていること

ゆっくり芯から考える。考えたい。