拓本 プレ・インカの美

会期:1983年5月26日~6月28日

本展は、当館が昭和53年度に開催した「拓本マヤの美」に続くものとして、プレ・インカ文明にみられる造形表現の豊かな美しさを、拓本によって、紹介するために企画し、特に今回は国立民族学博物館の協力を得て開催した。
ペルーを中心とした中央アンデス地帯の古代文明は、インカ文明と呼ばれている。しかも、同文明のうちインカ帝国出現以前は、特にプレ・インカ文明として区分されている。
プレ・インカ文明は、概観すると、紀元前1000年頃から15世紀のインカ帝国出現までの二千数百年間に、地域と特色を異にしながら、主として以下のような文化が次々に生滅している。牙のある神像崇拝のチャビン文化(アンデス山地)、頭蓋骨変形のパラカス文化(南部海岸)、写実的なモチェ文化(北部海岸)、美しい色彩のナスカ文化(南部海岸)、巨石建造物のティアワナコ文化(アンデス山地)、光沢のある黒色土器のチムー文化(北部海岸)、レース織のチャンカイ文化(ペルー中央部)などである。
文字のなかったプレ・インカ文明が今に伝えるものは、各地の遺跡と、博物館などに収蔵された土器、織物などの遺物だけである。本展に出品された拓本 247点は、各遺跡の石彫およびリマの天野博物館所蔵の土器から、日本画家の堀飛寛氏(京都市在住)が、1970年より数回ペルーへ渡って採拓したもので、いずれも、プレ・インカの美が、画家の眼によって生々と写しとられていた。また、同氏の拓本は、国立民族学博物館の所蔵品に加えられていたことから明かなように、学術的にも評価されたものであった。
展示には、4階と3階を使用し、4階では、牙を持つ神格化された人間、獣類、鳥類を象徴的に表現しているチャビン・デ・ワンタルの石彫と、戦士や首、胴、腕、脚などを切断された生贄の像をモチーフとしたセロ・セチンの特異な石彫から採られた拓本を展示した。3階には、トロ・ムエルトなどの岩に刻まれたプリミチーフな原始絵画、ピューマや蛇を主題としたプカラやタラコの石彫、あいきょうある人間や神獣を表しているワイラスの石彫などから採った拓本をならべた。さらに、神話的な動物や蛇のモチーフのパラカスの土器文様、戦士や戦いの主題が好んで用いられているモチェの土器文様、豊かな実りを司どる神々を表現したパティビルカの土器文様、鳥や魚の意匠に写実的なものから様式化されたものまで様々な描写の変化が認められるチムーの土器文様から採択したものは、 3階南側の同一壁画で各文化ごとに、しかもそれぞれモチーフ別にまとめて展示した。
拓本は、石碑や器物の文様や文化などを実物大のまま紙に墨と刷りとる東洋古来の技法である。拓本の白と黒の微妙な交差が生みだす空間の美しさは、写真などとはちがった固有の世界をひらいている。本展によって、プレ・インカ文明の見事な造形表現の一端とともに、拓本の黒白の美も併せて紹介できたことは有意義であった。
なお、本展のカタログとして、堀飛氏が採拓したものを自ら作品集にまとめて刊行した本を流用し、それに当館で作成した本展出品作品の簡単な棒リストを挿入することで一般の観覧の便に供した。

  • 入場者:総数5,664人(1日平均189人)
  • 主催:国立国際美術館
  • 協力:国立民族学博物館
  • パンフレット:18.2×25.6cm/4ページ
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