アメリカ北西派の美術 -その心に生きる東洋との出会い

会期:1982年10月2日~11月28日

アメリカの美術は、東部大西洋側がヨーロッパと対峙しているのに比べて、西部太平洋側がアジアに眼を向けながら、それぞれ特徴ある潮流を示してきているが、後者の美術の動向が日本に紹介される度合いは非常に少なかった。後者の地域の美術は、太平洋派(パシフィック・スクール)と総称されているが、さらに限定してワシントン州シアトル、オレゴン州ポートランドを中心とした地域の美術は北西派(ノースウェスト・スクールまたはパシフィック・ノースウエスト・スクール)と呼ぶこともできる。特にシアトルは、東洋への最短距離に位置し、かつて東洋からアメリカへ入る玄関だったし、日系人など東洋人も多く、他のサンフランシスコやロサンゼルスなど太平洋岸の地域以上に東洋との関係が強く深い。本展は、このアメリカ北西派の美術に焦点をしぼりアメリカの現代美術と東洋の文化・美術との交流関係を明らかにするため企画された。
ところで北西派とは、アメリカ北西部の地域を示すのみで美術の様式や性格を意味していないから同派は各種の傾向の作家を含んでいる。本展の出品作家と作品は、副題にも明示されたように、北西派のうち特に東洋と深く出会うことで創作活動を行っている14名の作家の1940年代から今日に至る作品153点を選んで展示した。内訳は、画家10名による107点、彫刻家3名による26点、写真家1名による20点であった。特にマーク・トビーとモーリス・グレイヴスの作品を、二人あわせて48点一挙に公開できたのは本展が日本では初めてのことで注目を集めた。
北西派を代表する指導者トビーは、1918年頃より東洋の万物一体の思想、特にペルシアのバハイズムに興味をいだき、東洋に対する関心を深めていった。 1922年からシアトルに定住し、ここで中国人画家より中国の筆法を学んだ。1934年には中国と日本を旅行し、日本では禅寺で修業もしている。その間、書道を習練して線による表現の可能性を追い求め、一定の地色の上に白色で仮名書きに似た細いオートマチックな描線を施す「ホワイト・ライティング」(トビーの白描)と呼ばれる独自な作風を築いた。ちなみに、トビーが日本で参禅した寺名は従来不明であったが、本展出品作家のポール・堀内が「エンプクジ」という名前を聞いていたのが手掛りとなり、1934年当時、京都・円福寺の外人禅堂の掛りだった田中宗坦師が松山市に健在で、トビーの同寺への参禅について確認することができたのは本展に付随する収穫であった。
トビーに次ぐ重要な作家グレイヴスは、1928年に水夫、1930年に高等船員実習生として日本、中国を訪れ、東洋の美術に感銘して画家になることを決意した。以来、彼は東洋文化への関心を深めるとともに、東洋画の白描や水墨技法から暗示を得、トビーの影響も受けながら、画家の修業を積んだ。1930年代の終りころより、紙に水彩、墨、インクなどを用いて身のまわりの小動物や植物などを幽玄味深く表現するようになり、単なる異国趣味の作風ではない東洋流の象徴的なスタイルを確立した。
詩的な流動感に富む線的表現のケネス・キャラハン、気魄のこもった太く力強い筆致のガイ・アンダーソン、色彩による空間表現のウィリアム・アイヴィー、曼荼羅のような神秘感をたたえた抽象表現のレオ・ケニーらは、いずれもシアトル美術館所蔵の東洋美術品に接することで東洋との出会いを深めた画家達であった。日本美術や禅宗への興味から東洋と親しんだカール・モリスの絵画と夫人ヒルダ・モリスの彫刻は、どれも構成的な抽象作品であるとともにスケールの大きな精神的価値の象徴となっていた。東洋人の自然観に感銘を受けたフィリップ・マクラッケンの具象木彫は、自然の材質への愛情と人間味あふれる作品であり、トビー、グレイヴスらと出会って東洋への関心を深めたリチャード・ギルキーの油彩画は、シアトルの風土の特性と美しさをよくとらえた仕事であった。
オボ(チベットの石積み)にヒントを得た形態と水とを一体化した噴水彫刻のジョージ・蔦川、和紙とカゼインによるコラージュ絵画のポール・堀内、抒情的色彩空間と幾何学性との統合をめざした抽象絵画のフランク・オカダ、シアトル地方の自然をカラー写真で撮ったジョーゼル・南宮らの日系作家の仕事は、血と風土や環境と芸術との相互関係という観点で意義深い展示であった。

  • 入場者:総数9,937人(1日平均198人)
  • 主催:国立国際美術館
  • カタログ:「アメリカ北西派の美術−その心に生きる東洋との出会い」
    24.5×25.5cm/120ページ/12ページ/白黒73ページ
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